見出し画像

即興の藝術、言葉の花火

私が『8mile』を初めて観たのは高校生のときである。
なので、のっけから母親のキム・ベイシンガーが騎乗位でセックスをしているシーンにどうしたら良いのかわからなくなったものだ。しかも相手は自分の同級生である……。

『8mile』はエミネム主演の映画であり、カーティス・ハンソン監督の作品だ。2003年に公開されて、この頃エミネムはすごい人気だった。
無論、私もエミネムは好きだった。単純にカッコいいのである。
今作はルーザーであるエミネムがラップバトルで一夜の勝利、はたまたこれからの栄光を掴むために再び歩き出す、的な話である。
エミネムの最後の怒涛のラップに、誰もが画面を注視してしまうこと請け合いである。
何よりも、ファルコン、いや、キャプテン・アメリカであるアンソニー・マッキーが出演し、実はお坊っちゃまなライバルを演じているのは最近識ったのである。

まぁ、学校でも職場でも、アカペラでここまで相手に言いたいことを言うのも面白いかもしれない。

私はラップには明るくないが、ラップ漫画で好きな作品がある。それが曽田正人の『Change!』である。


曽田正人と言えば、天才を描くのをライフワークにしている作家である。

『シャカリキ』における自転車レースの天才。
『め組の大吾』における災害救助の天才。
『昴』、『昴-MOON-』におけるバレエの天才。
『カペタ』におけるモータースポーツの天才。

私は『テンプリズム』は途中下車したのでなんとも言えないが、この『change!』もまた、天才を描いた漫画である。

日本語ラップの天才である。いや、天才かどうかはわからないが、この作品においては、16歳の女子高生が全く門外漢であるところのラップ業界で活躍する話である。

主人公である去年こぞのしおりは超お嬢様学園に通っていてる文系女子である。金持ちの令嬢であり、汚い言葉で相手を罵倒することなどあり得ない。ミッション系ぽい学校で、現代日本において、「ごめんあそばせ」的な会話が交わされているという魔空間に生きているのである。

その彼女が出会うのが同じ学園の同級生である美紀ちゃんなのだが、この美紀ちゃんがめちゃくちゃ攻撃的かつ、ラップを嗜んでいる娘で、彼女との出会いから栞はラップに魅せられていき、MCしおりんとして成長していき、高校生ラップ選手権を目指す、という話である。

百合漫画ではないが……。まぁ基本的にはゴンとキルアのようなものである。そういえば、カペタとノブのゴンとキルア感は半端なかったな。


今作では、栞の親父は古典研究の大家であり、イケメンなのだが、その素養は栞にも受け継がれている。彼女は、日本の言葉、とりわけ和歌を愛している。その素養がラップで爆発するわけだが、今作を読んでいて思うのは、日本語ラップという言葉のぶつかり合いの中で見える即興の言葉における藝術の美しさである。

全ての文学はそうなのかもしれない。自分がイケてるのか、イケてないのか。

MCバトルは決められたビートに乗せて、8小節で2回、お互いをディスり合うのだが、このビートはランダムで決められるため、即興でそれに乗せたフローでライムを踏みながら、相手を、まぁ言い負かす。それも、オーディンスが喜ぶようなパンチラインを駆使して。
まぁ、何を言っているのかよくわからないと思うが、私もよくわかっていない。なにせ、中々このライムとかアンサーとかも、聞いているだけでわかるものもあれば、そうじゃない小技を効かせたものもあったりして、舌を巻く旨さなのだ。

私が好きなのはやはりミキティである。漫画界で一番かわいい。

そういうMCバトルを、主人公のしおりんが屈強な男と繰り広げるわけだが、まぁ、彼女の名前もきちんと日本語ラップと和歌、タイトルと紐付けられていて、よく出来ている。

わずか6巻で終わってしまい、私としてはとても悲しいのだが……。日本語ラップはよくバカにされているが、私は好きだ。まぁ、全然詳しくない素人なのだが……。
けれども、やはり、言葉というものの不自由さ、そして自由さが一瞬一瞬で咲く花火のようなラップというものは、不思議と聞いていると鼓動も高鳴るのである。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?