タチバナシ

学校法人で事務職員として勤務し、8年目。大学、高校、学校法人の在り方について思うところ…

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学校法人で事務職員として勤務し、8年目。大学、高校、学校法人の在り方について思うところを書いています。気まぐれに文学についてや雑記も。

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『構造と力』千の否のあと大学の可能性を問う

 浅田彰『構造と力』。文庫化されて以降、どの本屋にも必ず平積みされており、否でも応でも目につく。久しぶりに、あの文体、浅田彰節に触れたいという思いがなくはない。というか、十二分にある。その一方で、「30半ばで手に取るようなものではない」、「論旨は覚えているではないか」「愚にもつかず、腹にたまらない思想ではないか」という心の声にも耳を貸さないわけにはいかない。結局、大垣書店で知人を待つ間の暇つぶしに前者の誘惑に負け、手に取ってしまった。本書は(そしておそらく浅田彰は)、気づけば

    • 『夜明け前』(小)論

       以前、noteに「読み返したい本たち1位〜30位」を書いた。書き終わった後に気づいたが、そこで紹介した30冊全てが20代、特に大学生、大学院生のときに読んだ本であった。逆に言うと、30代に入ってからは琴線に触れる本に出会えていなかったとも言える。しかし、つい先日、運命の邂逅を果たすことができた。その本は、島崎藤村の『夜明け前』だ。きっかけは職場の同僚と御嶽山に登った際に、島崎藤村記念館の案内板を目にしたことだ。7~8年前に本書を買って挫折していたこと、篠田一士が「二十世紀の

      • べき論ではない教育論、市民教育はオワコンか?

         先日、次の動画を視聴した。岡田斗司夫氏が2014年11月に東京学芸大学で行った講演であり、2022年5月にYoutubeにアップされたものである。8年前の動画をアップするだけあって、内容は古びておらず、示唆に富む動画であった。今回はこの動画の内容を紹介しつつ、市民教育はオワコンかということを考えてみたい。 講演の内容  岡田氏は、今回は「べき論ではない」教育について語ると切り出す。つまり、教育はどうあるべきかではなく、どういった社会的背景があって、その時代の教育は求めら

        • トポスとしての京都~「伏見」という2つの家~

           先日、アンドレア・バイヤーニの『家の本』(栗原俊秀訳)を読んだ。本書は自伝的要素を持った小説であるが、「家」それ自体に焦点を当てた一風変わった小説でもある。全78章からなる本書は、例えば「第1章 地下の家、1976年」といったタイトルが付され、その時代のその家が詳述される。本書の家には、「私」の住処としての家だけでなく、親戚の家や、観念的な意味での家、例えば、亀の甲羅、結婚指輪なども含まれ、多義的に用いられる。  あなたは「家」という言葉から何を想起するだろう。私はまず、

        『構造と力』千の否のあと大学の可能性を問う

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        • 大学論
          10本
        • 文学
          6本

        記事

          深煎りネルドリップの話

           先日、4、5年ぶりに東京に行った。『ペソア伝』出版に伴いその著者の対談が、下北沢で行われるということで(ネットでも視聴可能であったが)せっかくなので足を運んだ(ちなみに近々大阪にも来る「テート美術館展」も観に行った)。私は、大学受験で東京に行った際、そのあまりの人の多さに辟易し「こんなところには絶対に住まない」と心に誓った。その選択は決して間違っていなかった、と渋谷の街を歩きながら思った。  「何を食べるか、何の本を読むか、何を飲むか、何の服を着るか、何の映画を観るか、限

          深煎りネルドリップの話

          さようなら、京都みなみ会館

           私は、映画というメディアに、それ程惹かれない。本との相性の方が良い。それはケチだからかもしれないし、容易に見返すことができないメディアだからかもしれない。あるいは、一緒に観に行く友人が少ないからかもしれない。だから、映画館に行くことは稀だ。最近では、Amazon primeやNetflixなどで簡単に映画を観れてしまうから、利用者は減っているのだろうと推察する。利用者が減るから売り上げを確保するために、チケットの値上げをするのだろうか。正直、美術館や演劇と比べて高いなあと思

          さようなら、京都みなみ会館

          ペソアの伝記が出版された喜び

           即決だった。  先日、所用で一乗寺まで足を運んだ。時間に余裕もあり、せっかくだからと恵文社を覗くことにした。本屋に行くと、海外文学のコーナーをゆっくり物色し、それから哲学、思想、文庫本、新書、文芸誌、学校教育(あれば)の順に経巡る。これが私の基本コースである。しかし、今回は、海外文学のコーナーで早々にコースアウトし、1分以内には店を出て、10分以内には、喫茶店で、読み始めていた。  購入した本は「フェルナンド・ペソア伝 異名者たちの迷路」、その著者は澤田直氏だ。フェルナ

          ペソアの伝記が出版された喜び

          「偏差値」の今とこれから

           今回は、「偏差値」について書きたい。統計学的な意味での標準偏差のことではなく、日本社会で機能している大学受験の「偏差値」のことである。  私は保険をかけることが、生き方として嫌いだ。しかし、非常にセンシティブな問題なため、本題に入る前に、一つ保険をかけたい。それは、私がこれから述べることは、組織に所属する私の意見ではなく、まして、所属する組織の見解ではないということだ。くれぐれもご留意いただきたい、これから述べることの全ては私、一個人の見解であるということを。  この違

          「偏差値」の今とこれから

          大阪府の高校「完全無償化」に反対したい

           2023年2月に「私立学校の無償化に反対したい」という以下の記事を、大阪府下の私立高校を例に投稿した。そこでは、「所得連動型」の制限付き無償化が、私立学校に与える負の側面を説明した。しかし、今回、2023年5月に大阪府は、吉村知事の当選を受け、(私立・公立問わず)高校の「完全無償化」を掲げた。この制度の是非は、主として、少子化対策、格差是正などの観点から論じられており、それはもちろん重要な論点なのだが、私は前回同様、あくまで「私立高校の経営に与える影響」という観点から、論じ

          大阪府の高校「完全無償化」に反対したい

          読み返したい本たち【5位~1位】

           『読み返したい本たち』シリーズもこれにて最後である。ということで、30冊を並べてみた(本をあげてしまう癖があるので、本棚にないものも幾つかあり、引用するにあたり買い直した)。もう残りの人生この30冊を読み返すだけでも、十分ではないか、その他の本は全て誰かにくれてやってもいいんじゃないか、そんな気もしてくる。 5位:梅崎春夫『幻化』  戦争を経験した昭和の文学者でこのリストに登場するのは、梅崎春生で最後である。大岡昇平『野火』『レイテ戦記』、大西巨人『神聖喜劇』、中野重治

          読み返したい本たち【5位~1位】

          読み返したい本たち【10位~6位】

           前回、前々回に引き続き読み返したい本たちをランキング形式で紹介していく。今回は10位〜6位。ここまで来ると、一冊一冊への思い入れが深く、語りたいことがたくさんある。そのため、5冊で一旦きることにした。一応、順番は付けているが、1位〜10位の全てが入れ替え可能と言っても過言ではない。早速、始めよう。 10位:ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』  大学院生のとき研究のベースとしていた社会学の創始者の1人、マックス・ウェーバー。概念を巧みに駆使することで

          読み返したい本たち【10位~6位】

          読み返したい本たち【20位~11位】

           前回に引き続き、読み返したい本たちをランキング形式で紹介していく。今回は、20位~11位。30位~21位は、どの本にするか非常に迷ったが、今回の20位~11位は、変わり種は少なく、いわゆるよく聞く作家のよく聞く名著が多くなったように思う。早速始めよう。 20位:ジョルジュ・バタイユ『エロティシズムの歴史ー呪われた部分 普遍経済論の試み』  バタイユとは何者か。バタイユはなぜ異端児扱いを受けるのか。彼のエロティシズムの理論はなぜ嫌悪されるのか。この問いに、敢えて、大雑把に

          読み返したい本たち【20位~11位】

          読み返したい本たち【30位~21位】

           私はこれまで数えきれない本を読んできた。やむにやまれず読んだこともあれば、惰性で読んだこともある。随分、無駄な時間とお金を使ったと思う反面、この無駄を経て、良質な本・著者に巡り会えたように思う。それは、現実の人間との出会い以上に、印象的であり、今の私の思考の一部を構成している。  人生も終わりに近づいたら、これら良質な本を読み返すことに時間を費やしたいと考えている。そんなこんなで、備忘録も兼ねて、32歳を終えようとしている今、読み返したい本を30冊に整理した。  私は一

          読み返したい本たち【30位~21位】

          私立学校の無償化に反対したい

           教育が無償化されること。それは手放しに賞賛されるべきことである。憲法第26条にも、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」とある。私もそう考えてきた。高等学校の再建に携わるまでは。  私は学校法人の経営の一端を担う中で、「"私立学校"を無償化すべきではない。」と考えるに至った。なぜなら、無償化は私立学校の存立基盤を覆しかねないからである。今回はなぜ私立学校の無償化が、その存立基盤を覆してしまうのか、その論理と構造を明

          私立学校の無償化に反対したい

          「親ガチャ」と教育

           今年の大学入学共通テスト「倫理」の第4問において、「親ガチャ」問題が取り上げられていると話題になっていた。私は、この時はじめて「親ガチャ」という言葉を知ったわけだが、定義を調べるまでもなく、その意味するところが伝わってくるあたり、ネットのネーミングセンスには脱帽せざるを得ない。一応、Wikipediaの定義を確認しておこう。  GさんとHさんの会話から始まる第4問はGさんの「すごい豪邸・・・、こんな家に生まれた子どもは運がいいね。不平等だな。」という印象に残る一言から始ま

          「親ガチャ」と教育

          大学職員が読むべき10冊

           今回は、私が考える「大学職員が読むべき10冊」を紹介する。「学校法人職員が」とせずに「大学職員が」とした理由は、1つは、初等・中等教育などには触れず、あくまで「大学」という制度・教育に関する書籍をピックアップしたからであり、1つは、法人経営・ガバナンスの在り方などに関する書籍は除いてピックアップしたからである。  私は、ある程度、知識を持った者同士が議論をするから、生産的な意見や建設的な意見が生まれ、学びが得られると考えている。そして、この10冊を読めば、その「ある程度」

          大学職員が読むべき10冊