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【卒制】入社式の日に就活氷河期の話『燻し銀の花』0~5章まで更新

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🌸燻し銀の花 ――『揺るぎなき夢』の大切さ――
5章 三角形の紙・女王様ペンギン・就職活動の鬼門

 作家になる。

 その一点張りでも良かったのだろう。だけど、ボクは会社に就職して安定した収入を得る道を捨てることがどうしてもできなかった。

 本格的に就活を始めたのは大学三年生の夏休みからだ。大学四年生に交じって八月のインターンシップに参加した。

 母親から「家庭教師に向いている」と言われたことがあり、教育関係の企業に絞ったボクは学習塾を運営する株式会社スプリットコンプリメンタリーに狙いを定めていた。

 予定よりも三十分早めに家を出たから十二時半の開始に間に合った。ボクは時間に追われことが嫌いだったから、三十分前行動を取るようにしていた。

 ダークスーツを着た若い女性に「城谷さん、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」と案内されて席に着いた。

 誰一人、一言もしゃべっていなかった。スーツを着て姿勢を正している。前を向いて口を噤んでいる。ボクも真似をした。それだけで社会人の一員になれた気がした。

 最寄駅からここまで歩いてきたから喉が渇いていた。だけど、机に置かれている水も持参した水筒も、指示されるまで飲んではいけない雰囲気がそこにはあった。

 仕方なく生ツバを呑む度に脳がノルアドレナリンを分泌して呼吸が詰まった。

 案内をしてくれた若い女性社員が前に出てきた。カーペットの上を革靴で踏んでいた。そういえばボクも周りも土足だった。靴底の汚れが気になった。

 大きなカーテンで真昼の陽射しを遮っていた。

 窓際には滑車で動かせるプロジェクタースクリーンがあった。映像は静止画だ。〈株式会社スプリットコンプリメンタリー〉のテロップに〈夏のインターンシップ〉と小さく添えられていた。

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