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本格派スパイ・サスペンス『クーリエ:最高機密の運び屋』映画レビュー|核戦争の危機から世界を救った男たちの実話

先日、映画『キングスマン ファースト・エージェント』の予告編が公開され、あの最強スパイ組織の誕生秘話が明かされると思うとワクワクしてしまいました。また、公開が何度も延期され、ややシラけていた映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』もついに公開日が決定。一気に熱が戻ってきたところです。

しかし、2021年のスパイ映画はこれだけではありません。キングスマンや007のようなスパイ・アクションとは一線を画す、本格派スパイ映画『クーリエ:最高機密の運び屋』が明日9月23日(木)に公開されます!

スパイ・アクションの刺激に慣れてしまった方には、水面下で静かに展開していくスパイ・サスペンスでは少し物足りないかもしれません。しかし、『クーリエ』の魅力は、“ばれたら殺される”という状況に晒され続けるスパイたちの異常なまでの緊張感がスクリーンの向こう側から伝わってくるところにあります。その緊張感こそ、“人類史上、最も第三次世界大戦に近づいた13日間”と称される「キューバ危機」の緊迫した空気そのものなのだと思います。『クーリエ』を通じて、スパイの「リアル」をとくとご覧ください!

あらすじ
1962年10月、アメリカとソ連、両大国の対立は頂点に達し、「キューバ危機」が勃発した。世界を震撼させたこの危機に際し、戦争回避に決定的な役割を果たしたのは、実在した英国人セールスマン グレヴィル・ウィンだった。スパイの経験など一切ないにも関わらず、CIAとMI6の依頼を受けてモスクワに飛んだウィンは、国に背いたGRU高官との接触を重ね、そこで得た機密情報を西側に運び続けるが――。本作は、キューバ危機の舞台裏で繰り広げられた知られざる実話を基に、核戦争回避のために命を懸けた男たちの葛藤と決断をスリリングに描いた、迫真のスパイ・サスペンスだ。

公式サイトより

映画を観る前に知っておきたい!GRUとは?キューバ危機とは?

スパイ映画を観ていると、何がなんだか分からなくなることってありませんか?国と国の関係が分からない。二重スパイが結局どっちを裏切っているのか分からない。コードネームと本名が飛び交って、誰が誰だか分からない。……実はこれ、私の経験談です。スパイ映画の名作『裏切りのサーカス』を初めて観たとき、何が起きているのか分からなくて途中で寝てしまうという(笑)

みなさんにはスパイ映画で迷子になってほしくないので、ここでは普段スパイ映画をあまり観ない方に向けて、基本的な組織の名称と、キューバ危機が勃発した歴史的背景を簡単にまとめてみたいと思います。

■ スパイ映画の基礎用語:組織の名称

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©1996, 2018 Paramount Pictures.

CIA(中央情報局)
アメリカの情報機関。世界中から国家安全保障に関する情報を収集。映画『ミッション・インポッシブル』の主役イーサン・ハントはCIAの極秘諜報部隊IMFに所属するベテラン工作員。また、映画『ボーン・アイデンティティ』の主役ジェイソン・ボーンは、心因性健忘に苦しむ元CIA暗殺者。

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©2013 Danjaq, LLC, United Artists Corporation, Columbia Pictures Industries, Inc.

MI6(秘密情報部)
イギリスの情報機関。SISが正式名称だが、MI6の通称が広く知られている。映画『007』シリーズの主役ジェームズ・ボンドはMI6の工作員。また、映画『ザ・ロック』では俳優ショーン・コネリーがアメリカの機密情報を盗んでアルカトラズ刑務所に幽閉されてしまった元MI6諜報員を演じている。

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©2010 Columbia Pictures Industries, Inc. and Beverly Blvd LLC.

KGB(ソ連国家保安委員会)
ソ連時代の情報機関・秘密警察。軍の監視や国境警備も担当。映画『ソルト』の主役イヴリン・ソルトはKGBとCIAの二重スパイ。また、映画『コードネーム U.N.C.L.E.(アンクル)』の主役イリヤ・クリヤキンはKGBの超エリート。

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© Asmik Ace Entertainment

GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)
ロシア連邦軍における情報機関で、旧ソ連時代から存続する組織。軍事スパイの親玉。実在したGRUスパイには、かの有名なリヒャルト・ゾルゲがいる。映画『スパイ・ゾルゲ』の題材となった人物。また、本作『クーリエ』に登場するオレグ・ペンコフスキーはGRUの高官。


■ 「キューバ危機」とは?

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“人類は60年近く前に滅びかけたことがある。
1962年10月に勃発した、いわゆるキューバ危機がそれである“

― 軍事評論家 小泉 悠

ことの発端は、1959年のキューバ革命。フィデル・カストロとチェ・ゲバラらが中心となり、親米派のバティスタ政権を打倒しました。アメリカのケネディ政権は、武装工作員を送り込んで革命政権の転覆を図るも失敗。これを機に、キューバはソ連に急接近します。それまでアメリカが「裏庭」と思っていたカリブ海に社会主義国家が誕生してしまったのです。

ソ連にとってキューバは大変魅力的な立地にありました。当時は、アメリカもソ連もお互いの本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実用化には至っていませんでした。そのため、ワシントンD.C.までわずか2000kmの距離にあるキューバに核ミサイル基地を配備できれば、アメリカ本土を脅かせるようになる。ソ連にはそんな思惑があったのです。

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キューバ危機の秘密会議で実際に使われた地図

一方、アメリカもキューバ危機に先立ち、トルコに中距離弾道ミサイルを配備したり、ソ連周辺をぐるりと取り囲むヨーロッパやアジアの同盟国に戦略的爆撃部隊を展開させていました。それでも、目と鼻の先にソ連の核ミサイルが配備されることは受け入れがたく、10月24日、アメリカはキューバの海上封鎖を発動。圧倒的な海・空軍力でキューバ周辺を封鎖し、後続のミサイルや核弾頭を運んでくるソ連船団を締め出そうとしました。

最終的には、ソ連のフルシチョフ首相とケネディ大統領の合意によって、ソ連船団は引き返し、配備済みの核ミサイルも撤去されたことで危機は回避されました。

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実際のところ、水面下では不確実な情報に翻弄されアメリカとソ連は破滅の瀬戸際に立っていたようです。そのため、本作『クーリエ』に登場するスパイたちが重要な役割を果たします。核戦争をくい止めるためソ連の軍事機密を持ち出したGRU諜報員オレグ・ペンコフスキー(左)と、その情報をCIAとMI6に運び続けた平凡なイギリス人セールスマン グレヴィル・ウィン(右)の2人です。

今回は怪演なし!カンバーバッチが演じるのはイギリスの正義感

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平凡なイギリス人セールスマンを演じるのは、イギリスの名優ベネディクト・カンバーバッチです。日本ではBBCドラマ『SHERLOCK/シャーロック』(2010)で人気に火が付きました。イギリス人らしい細長いシルエットに、ブルー、ゴールド、グリーンが混じり合う神秘的な瞳。数奇な運命をたどる役や、個性的な性格を持つ役を数多く演じています。

例えば、『SHERLOCK/シャーロック』では、“高機能社会不適合者”を自認する現代版シャーロック・ホームズを。映画『ホーキング』(2004)では、天才でありながら学生時代に筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症し「車いすの物理学者」となるスティーヴン・ホーキング博士を。映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(2014)では、第二次世界大戦中にエニグマ暗号の解読に成功し、のちに同性愛者として訴追を受けるアラン・チューリングを。さらには、映画『ドクター・ストレンジ』(2016)では、カトマンズで過酷な修行の末に魔術師としてよみがえり、悪と戦うマーベルヒーローの役まで。

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カンバーバッチが『クーリエ』で演じたグレヴィル・ウィンもまた数奇な運命をたどる役柄です。家族と普通に暮らしていたウィンは、ある日突然、CIAとMI6に機密情報の運び屋をしてほしいと依頼されます。世界平和のため、世界平和のためとプレッシャーをかけられ、追い詰められていく一般人の姿を見ていると、国家が揺れ動いたとき、私たちのような小さな個人には、NOと言うことさえ許されないのではないかと、一瞬不安が頭をもたげます。

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しかし、GRUのペンコフスキーとの間に友情が生まれたことで、ウィンは勇ましくなっていきます。2人は政治的イデオロギーこそ違っていたかもしれませんが、家族を深く愛し、核兵器の危機から世界を守りたいと願った1人の男であることには変わりなかったのです。「この情報を平和の礎に」そんな想いを共有して最後まで闘い抜いたウィンとペンコフスキーの姿に、希望の光が見えるようでした。

“われわれのような人間から、世界は変わるのかもしれない“

劇中で語られるこの言葉にこそ、本作最大のメッセージが込められているように感じました。

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スパイ・アクションがブームな昨今にあって、“本格派”を推す理由、分かっていただけたでしょうか?もちろん、カンバーバッチ ファンの方も純粋に楽しんでいただける映画となっていますので、ご安心を!

こんなご時世ではありますが、劇場に1人出かけてみてください。スクリーンから伝わる緊張感に震えつつ、最後はジーンと胸を熱くして帰路についていただけるはずです!

今日も最後まで読んでいただきありがとうございました!

WEBスタッフ YOKO

『クーリエ:最高機密の運び屋』
9月23日(木・祝)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
監督:ドミニク・クック
出演:ベネディクト・カンバーバッチ、メラーブ・ニニッゼ、レイチェル・ブロズナハン、ジェシー・バックリー

2021年|イギリス・アメリカ合作|英語・ロシア語|カラー|スコープサイズ|5.1ch|112分|原題:THE COURIER|G
配給・宣伝:キノフィルムズ 提供:木下グループ
© 2020 IRONBARK, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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