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台湾映画LOVERのつぶやき【その3・時代を映す鏡としての台湾映画】

◆時代を映す鏡としての台湾映画

多民族、多言語、中国本土との関係といった要素から台湾は常にアイデンティティーが揺れ動いています。またその揺らぎ故に様々なものの受容性も高いと言えます。それは国だけでなく、個人についても同様です。だからでしょうか、台湾の映画は他国よりも時代を映し出した作品が多く、時代を先取りしたかのように多様性を描いたものが多いと感じます。ここではメジャーなものをいくつかご紹介します。

◆「好男好女」

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「悲情城市」と共に、ホウ・シャオシェン監督の台湾現代史3部作の一作です。1950年代の言論弾圧・白色テロを扱い現在と当時の時間を劇中劇を借りて行き来しながら、大切な人を失うことの哀しみを時間を超えて伝えてくれます。

◆「恋恋風塵」


これもホウ・シャオシェン監督の作品です。1960年代後半ようやく経済成長をし始めた台湾を舞台に、時代のせいで引き裂かれた幼馴染を美しい風景の中で観せてくれます。誰も悪くない悲劇がいつも一番切ないです。

トンネルを抜けると現れる色濃い木々が一気に観るものを南国・台湾に連れて行ってくれるこの作品のオープニングの美しさは、私はアジア映画の中で1,2だと思っています。


◆「セデック・バレ」と「KANO」

これはいずれも「海角七号」で喪失と再生を描き「国片ブーム」を作ったウェイ・ダーション監督の作品です。彼は日本統治時代の「台湾と日本」を軸に全く異なる3作品を作っています。

*「海角七号」についてはぜひ【その2】を読んでください。

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「セデック・バレ」は日本統治下で起きた先住民セデック族による蜂起「霧社事件」を題材に歴史の中で避けられなかった悲劇が描かれています。実際の事件を描いているため、殺戮の描写が多く全ての人に気軽にお薦めはできませんが私は観て良かったです。

セデックバレとは「真の人」の意味です。この映画で描かれている出来事がセデック族が民族としての、人としての尊厳をかけた戦いが実話であったことを知ると、タイトルにも、部族長を演じたセデック族の人が牧師であることもうなづけました。


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「KANO」は奇跡とも呼べる希望がテーマです。漢族、原住民族、日本人がひとつになり台湾から初めて日本の甲子園に出場し、その後の台湾野球の礎を作った実話が描かれています。

ウェイ・ダーション監督の3作は、テーマが全て異なっていても共通しているのは「歴史の中で善悪はきっぱり分けられるものではない」という視点です。この見方、私は正しいと思います。


◆「GF*BF」

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1985年の戒厳令下の台湾で高校の同級生だった3人の男女の27年にわたる物語です。高校生の時に軍事教官が生徒を取り締まっている場面や、大学生になって学生運動に参加しているあたりに、今の台湾を語るには歴史のイベントを描くのが欠かせないことが伺えます。

これがこの映画を単なる恋愛映画と見なせない理由です。もちろん恋愛映画としてもよくできています。大人になるにつれ、環境も自分も変わり、かつてのような友情関係には戻れなくなる若者3人の痛みは、とても良く分かります。本人たちだって「好き」っていう気持ちを消し去ってもっと楽になりたいですよね。でも心に蓋をするって本当に難しい。青春映画と呼ぶには苦すぎるけど心地よい余韻の残る良い映画でした。


◆「返校」

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台湾の黒歴史、政府による知識人や反体制派への弾圧「白色テロ」を背景にした一本です。

どんな国にでも黒歴史はあるけど、そんな出来事がゲーム化され、ホラー色の強い映画になり、いずれもが大ヒットという点に台湾の包容力の広さを感じます。(日本だったら不謹慎!と世論に叩かれちゃうに違いないです。)
この包容力って、多民族国家でさらに常にアイデンティティーが揺らぎ続けている台湾ならではなんだろうな、とちょっと感動すら覚えながら私は観ました。

*【その4】では台湾の青春映画について書きます。




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