【音楽と思い出】『Woman』byジョン・レノン
〔アルバイトのこと〕
大学時代にやっていたバイトの一つに、学習教材購入者への電話フォローなどというものがあった。
決して怪しげな仕事ではない。
大手事務機器メーカーが(正確にはその子会社が)教材を売るときの、例えて言えば純正オプションみたいなサービスである。
「専門の講師やチュ-ターが定期的にお子様の学習をフォローします。悩みなども相談出来ます」多分こんなことを言って売り込んでいたのであろう。
しかし、実際にフォローしているのは我々のような当時の大学生や短大生である。
フロムエーや学生援護会アルバイトニュースを見て応募してきた学生である。
学生という事以外に条件はない。であるから教育者としてはノンプロだ。むしろこのあいだまで受験勉強という教育を受けてきた側なのである。保護者に対する騙しみたいなものではないかと思うと少し胸が痛くなる。
仕事は夕方4時頃から約4時間。15分間隔で大体1日で12人~13人前後のユーザーの子供に電話をかける。
子供たちはほとんど小学生。帰宅後に教材をちゃんと使っているのかをフォローするのだが、時には少し勉強を教えたりすることもあった。
まじめな子、不真面目な子それこそ10人話せば10人とも違っていて、電話口で全く話さない子もいたし、電話をすぐ切る子や親に替わる子もいた。その日学校であった事を楽しそうに話してくれる子もいた。皆個性があった。たかがバイトではあるが電話の向こうの顔の見えない子供に僕は真面目に向き合っていた。
こちらは講師という設定なので時には進路について相談をしてくるお母さんもいた。電話の向こうで夕食の準備で忙しそうな音が聞こえてくることもあった。
もしも今のようにSNSがあれば、画面上でお互いに顔を見ながら話をするのだろうが、当時は情報は受話器からの声だけであり、あとは想像力の世界になってしまわざるを得ない。それはそれでいいなと思う。
〔バイト仲間のこと〕
少し前段が長すぎたかもしれないが懐かしくて余計に綴ってしまった。
ここからが本題である。
バイト先にはいつも10人ほどの学生が詰めていた。電話の合間に5分ほどタバコ休憩をとる(ビルの階段に座り込んで!)そのとき話が弾んだり気の合う者たちでアフターで晩御飯を食べに行ったりするようになった。
バブルのころではあるが、時給5百円とか6百円くらいの安いアルバイトであるから、食事も割に質素にサイゼリヤ。仕事場からも近かった。食べるより話し込む時間の方が長かったと思う。
仲間の中にルミちゃんという子がいた。
腰まで伸びた長い黒髪、ストーンウォッシュのジーンズ姿、笑うと白い歯と一緒に歯茎もちょっと見えるのだけどそれがチャーミングですごく距離が近くなるように感じるそんな子だった。
誰にでもそんな笑顔で話しているのをなんとなく見ていたけど、特に恋愛感情を持つ事もなかった。九州の田舎から出てきた僕には、東京の短大生の彼女は付き合うとしても敷居が高い、そういう気持ちも内心あったかもしれない。
バイトの後のサイゼリヤで話題が音楽の話になったのだろうと思う。自分の得意分野でもあり、いい曲、好きな曲を話したり勧めたりしたはずだけど話の流れでおすすめの曲をカセットテープに録音して彼女に渡した。
そのカセットの最初の曲が womanだったということ。
当時はハードロックやヘビーメタルにもハマっていたけど、それはちょっときついだろと思って優しい曲を色々選んだのだと思う。
後日、ルミちゃんとカセットの曲の話をしたとき「またご飯食べに行こうね。今度は2人で行きたいな」と言われた。
でもなぜか行かなかった。
理由は覚えていない。
行けばよかったと今更ながら後悔している。
今回思い出を記すにあたってwomanの歌詞を読み直した。彼女も歌詞を見たかもしれない。誘っていると思われてもしょうがないなと思った。曲の素晴らしさは言うまでもない。懐かしい思い出だ。
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