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書簡体小説の醍醐味 『こうしてあなたたちは時間戦争に負ける』と『世界を超えて私はあなたに会いに行く』

小説には一人称、二人称、三人称などの設定があるが、書簡体(手紙のやり取り)という形式がある。手紙のやり取りで物語が進行していく、手紙というのは受取人がいれど宛先の人を思い浮かべた基本は一人称。
つまり書簡体小説は変形した一人称VS一人称の小説で、一見すると狭くなりがちな視野をあれよあれよと広げたり、語り手に信頼が置けるのかどうかと疑ったり、書き手の腕次第で料理の幅が広い形式だなと最近読んだ2つの書簡体小説から感じた次第。




こうしてあなたたちは時間戦争に負ける』アマル・エル=モフタール・ベルモフタール&マックス・グランドストーン、早川書房、2021年。広大なる宇宙で時空を超えた戦争をしている2つの陣営のトップエージェントが繰り広げる絢爛豪華なSF。対立する二人のエージェントがやり取りするメッセージは戦闘のときの一瞬の空きを突いて手渡された何気ない品物だったり、怪しげなメッセージ。書簡体と言いつつ、手紙ではなくあの手この手で伝えようとするメッセージのし掛けと内容に、ええ待って、どうなるのこれ?と思っている間にとんでもない遠大な空間に連れて行かれる作品となっている。
主人公たちがレッドとブルーなんて味気もロマンもありゃしない名前なのに、この二人がしのぎを削って騙し合っていくうちに互いを認めあい、次第に恋に落ち、さながらロミジュリよろしくな関係になっていく過程のスリリングさ。お互いをからかうのに過剰なまでに遊びを入れてしまう、メッセージだから出来る高揚感、読んでてちょっとニヤニヤしたくなる。
一人称のメッセージと三人称の坦々とした描写をシャッフルさせながら馬鹿でかい空間と文明の華々しさを語りつつ、読み終えたときにタイトルに込められた意味にチクショウやられた!と膝を打つ。
ワイドスクリーン・バロック的なSFであり、女性エージェント二人の恋物語としても楽しく、仰々しい言葉遊びの妙技ありと楽しい一冊だった。



世界を超えて私はあなたに会いに行く』イ・コンニム、KADOKAWA、2021年。こちらは100%書簡体小説、韓国のジュブナイルものを得意とする作家の時間を超えて手紙をやり取りする二人の少女がメインとなっている。
こちらは上記に対して、話の範囲が再婚予定の父、継母になる予定の女性、主人公の祖母、主人公と時空を越えて手紙のやり取りするウニュという少女のみという規模がわかりやすいと言うか、身近な設定になっている。
が、どっこい20年という時間のねじれを超えてやり取りされる手紙のやり取りがとんでもない自体に巻き込まれているのに、話題が思春期の成長痛という親近感わきまくりな設定に唸らさられて一気読みしてしまう。
ジュブナイルものを得意とする作家なのもあるのだろうが、とにかく読みやすさが半端じゃなくて、友達とのおしゃべりみたいいな感覚であっという間に話が進む。
主人公のウニュと同じ名前のウニュ、手紙でしかやり取りしていないのに、顔も見たことないのに誰よりも信頼できるとお互いに思い会える関係にほっこり。感の良い読者ならばオチは感づいてしまうかも知れないけども、その過程に韓国社会の歴史や、生活スタイルが差し込まれて韓国社会の生活を覗き見るようで面白い。
最初は牧歌的だった過去のウニュの世界がだんだんと現代に近づいていき、最後は主人公と同じ時間に近づいていく下りはグローバル化によって、いかに世の中の生活スタイルが似たり寄ったりなのかと愕然とさせられる。
書簡体で一つの完結した仕掛けを最後までやり通す作者に拍手を。







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