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認知症の父と、母とわたし(遠距離介護記録前夜)

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キウイと父のОB会

キウイと父のОB会

 私の朝食はトースト、豆乳、ゴールドキウイとだいたい決まっている。トーストはチーズや納豆をのせることもある。冬場はキウイでなくりんごのこともある。幸せになれるらしいバナナもどこかで食べないといけないのだが、元来あまり好きではないため、マイブームは去ってしまった。

 子供の頃にはキウイといえばグリーンだった。それでも十分食べられていたのに、大人になって初めてゴールドを食べたときにはびっくりした。え

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パイナップルと父の骨折

パイナップルと父の骨折

 芯ごと食べられるという台湾パイナップルを買った。酸味が立ちすぎず柔らかく食べやすかった。生ごみが少ないのもありがたい。ついていた葉ごと上部を切ったものを試しに小さな庭に路地植えした。1か月後、ただ枯れているそれを見て、もう一度パイナップルを買ってきた。ネットで調べると、まず水にさして根が出てから鉢に植える方法が紹介されていたので、コップにさしてみた。

 少しずつ根が伸び、本数が増えていった。成

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青ジソと父の受診

青ジソと父の受診

 庭のプランターのシソの種は、そこかしこに飛び散って、春になるといろいろな場所で伸びる。刺身を買ってきたら、母はキンチョールと小さなザルを持ち庭に出て、シソの葉を取る。刺身の皿には千切りにした大根と魚ひと切れに一枚ずつあろうかという数の大葉が添えられた。「巻いて食べろ」と母は言う。

 父は還暦を過ぎてリタイヤしてからリウマチで整形外科にかかるようになった。クリニックで紹介を受け、隣町の国立病院

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ブルーベリーと父の直らない修理

ブルーベリーと父の直らない修理

 梅雨が明けた頃、「ぴーよに食べられてて、少し赤いのしか残ってなかった、食べ頃だけ食べていくんだから」と、母は小ぶりなタッパーに10粒ほどのブルーベリーを「ちょっとつまんで」と出してきた。ヒヨドリのことをぴーよと呼ぶのを聞くとかわいいなと思う。

 父の物忘れが始まった頃、母のかわいいところが影を潜めていたのは、不安のせいだったのか。

 いろいろな物事を家の外の人と交渉して決めるのは父で、母が決

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バナナと父の運転免許返納

バナナと父の運転免許返納

「バナナ食べると幸せになれるらしいよ、誰だったか脳科学者がYouTubeで言ってた。バナナのトリプトファンがセロトニンの原料になるんだったかな」

 話し出してみるとうろ覚えはいつものこと。夫はふーんと言ってはいるが、私の声に呼応しているだけだろう。

 私はこの数年あまりバナナを食べていなかったが、その動画を見てからしばらくの間、週一回バナナを買い、そのまま食べる気がしない時は、レンジで簡単にで

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