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商業デビューした小説家が驚いた5つのこと

7月18日刊行の「夏のピルグリム」は僕にとって二冊目の商業出版による小説です。
2023年10月に「ふたりの余命 余命一年の君と余命二年の僕」で商業デビューする前は、10年にわたってAmazon Kindleでセルフ出版をしていました。

ずっと小説を書いてきましたが、商業デビューして気づいたこと、驚いたことがいくつかありました。
小説を書くという行為は同じですが、それ以外のことは全部と言っていいほど違いました。


ひとりじゃない

セルフ出版は文字通り、自分自身で出版することです。自分で原稿を書いて、自分で推敲し、自分で表紙を考え、自分で出版します。
僕の場合、出版する前に読むのは、僕とカミさんだけでした。批評してくれるのは彼女だけです。
商業出版だと、一冊の本に大勢が関わります。編集者(作家から見えませんが、おそらく編集部の複数の人が読んでくれているはずです)、校正さん、デザイナー、イラストレーター、印刷会社の人、配送業者、書店員さん。本当にたくさんの人が本のために働いているのです。
ひとりでなんでもやるのは気楽ではありますが、時には「これであっているのか?」と不安になることもあります。
商業出版だと、編集の方から助言がいただけます。自分で好き勝手に書きたい人もいるでしょうが(小説家を目指す人は、そっちの傾向が強い人が多いと思いますが)、自作の小説について語れる人がいるというのは、案外良いものです。

仕事である

セルフ出版も「仕事」だと捉えてやっていましたが、ひとりでやっているので、どうしても緩みがちでした。
商業出版で行うことは、紛れもなく「仕事」です。締め切りを守り、他の人(主に編集者の方)と話し、調整していく必要があります。
そして、最も大事なのはビジネスであるということです。出版にかかったコストを回収して、利益を出さないといけないわけです。
そのために、コストを減らして、売り上げを伸ばす必要があります。売れない本は最終的に断裁本として処分されますし、その小説家の新作は出版されにくくなります(出版社によっても事情が異なると思いますが)。
逆に、売れれば多くの出版依頼が飛び込んできますし、広告費もかけられます。
僕は長年会社員としてビジネスをしてきたので、ビジネスライクな進行は嫌いじゃなく、商業出版すると決まった瞬間にマインドは会社員時代に戻り「仕事」モードに入れましたが、人によって、違和感を覚えるかもしれませんね。

書店様が大事

出版業界にとって、実際に書籍を販売する書店が大事なのは知っていたつもりでしたが、想像していたよりも書店の重要性が大きいと感じました。
雑誌と紙媒体のコミックの売り上げが急減している書店と、電子書籍の売り上げが1割にとどまる書籍は一蓮托生の関係です。
出版社の人はもちろんそれを十全に理解していて、書店さんを訪問し、共にに本が売れる関係を構築しています。

出版社の存在

書籍を出版するのは出版社です。日本に出版社は約3000社あるそうです。マクドナルドの店舗より多い。すご。
当然、大きな出版社もあれば小さな出版社もあります。どの業界でもそうなのですが、大手出版社の影響力は大きなものです。
昔から書店を回るのは大好きで、若い頃は毎日のように通っていましたが、書籍がどのように店頭に並んでいるかあまり気にしてきませんでした。
ところが、いざ自分の本が店頭に並ぶのを想像しながら、書店を眺めると全然違う風景が見えてきました。
単行本は売れる本が店の前面に並び、文庫本は大手出版社の棚が入り口の近くにあり、小さな出版社の棚は店の奥にある風景が見えてきました。
ヒット作を連発している出版社の本はコーナーが設けられていて、大手出版社は文庫フェアなど販促費を大量に投下していました。
出版業界にとって、書店はビジネスの最前線です。だからこそ、出版社は書店様と関係を築き、店の良い場所に自社の本を並べてもらおうとするわけです。

なにも変わらない

中学の頃からずっと夢見てきた小説家になれて、一番思ったのはなにも変わらないということです。
事前にあれこれ聞いていたのでデビューしたらなにもかもが劇的に変わるようなことが起きないのはある程度知っていましたが、本当になにも変わりませんでした。わかっていたから、別に失望もしなかったし、驚きもしませんでしたが(あ、タイトルと相反している)。
編集の方とやり取りすることは変わりましたが、それ以外は今までと同じように暮らし、同じ時間が流れています。
セルフ出版していたときと同じく、毎日小説を書く日々です。それがしたかったんだから、別に困らないんですけど。

著者初の単行本形式の小説「夏のピルグリム」がポプラ社より発売中です。「ポプラ社小説新人賞」奨励賞受賞作です。よろしかったら書店で手に取ってみてください。善い物語です!


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