見出し画像

半分ヒト半分チンパンジー半分少女|ダーウィン事変 1~3巻|Review

『ダーウィン事変』1~3巻
うめざわしゅん作、講談社、2020年8月〜

レビュー2022.05.21/マンガ★★★★★

(伊武雅刀風に言いますよ。まじめに受け止めすぎないでくださいね)
「私は人類(人間)が嫌いです」。

他の生物を絶滅させてきた歴史も、気候変動その他で絶滅させようとしている現状も嫌いです。人類による六番目の大量絶滅はとても憂鬱です。地球に誕生した生命デザインは神秘の極みで、生物多様性はかけがえのないものだと思います。

ただ、私は蚊を殺しますし、肉も魚もそれなりに食べます。一個一個の生命の犠牲や痛みの上に私がいま生きていることを、無自覚に自覚しています。

「私はベジタリアンもヴィーガンも嫌いです」。

理由は2巻でセリフ化されていること、かつて埴谷雄高がチーナカ豆で釈迦を断罪したことと同じです。植物には意識がないからいいのさ、なんて、進化生態学者のモニカ・ガリアーノが聞いたら怒るでしょう(『アース・ワークス』のライアル・ワトソンもね)。

ただ、ヴィーガンとして生きろ!と言われれば、大豆好きなのでできそうな気がします。そもそも意識があろうとなかろうと、栽培植物を食べないと生きていられない身体なのです。

そんな誤謬や自己矛盾だらけの私ですから、この漫画の主題「人間は特別な存在か?」にはYESと言っておきましょう。人類が認知革命、科学革命を経てここまでの知性を獲得したことは脅威的です。これまで発見されてきた科学上の定理、研究上の仮説にはワクワクさせられるものが多々あります。マルチ・スピーシーズ本を読むとそうじゃないかもと思ったりしますが、やっぱ特別です。

「人類は進化すべきか?」もYESです。主人公チャーリーは「ヘテローシス=雑種強勢」という設定で、人間以上の知力、チンパンジー以上の身体能力を獲得しています。そういう生物学的現象が存在することも驚きですが、現生人類は「ネオテニー=幼形成熟」で進化したかも説もあるくらいなので、チャーリーの形態で進化する可能性(クローン含む)も決してゼロではないでしょう。

とはいえ、特別な人間様が他の生物を蹴散らして、地球上を機械文明に変え、不老不死の存在になる未来は全否定します。

私の理想は、人類による絶滅が起こらなかったという仮定で、世界人口20〜30億人くらいが産業革命以前のライフスタイルのまま、科学技術だけは現在並みに発達しているという「もしもワールド」です。人類は農業生産性の高い特定の場所に集住していて、あとはリゾートの点的開発のみなので、生物の生息環境はいまよりずっと守られます。収奪的土地利用を行わない少数民族はその先住権を保障します。当然です。

人類進化については、定命であれば、すなわち生物性が優位である限りは、正直、攻殻機動隊方式でもいいと思っています。わりと柔軟です。認知症になるのがこわいからでもあります。

そういう夢見の状態なので、この漫画がふたつの主題をどう展開していくのか、それを読む私の考えがどう影響を受けるのか楽しみです。


この記事が参加している募集

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?