作家デビュー乞うご期待! ~クロスワードパズルをつくる~
何故だろう。
パズルやゲームは好きじゃない。解いていて楽しいと思わない。「解く」というのは、一見、能動的な行為である。しかし「1+1=2」と答えるのと変わらない。あるべき答えを探すだけの行為に「創作」の余地はなく、受動的でつまらない。
だが自分で「作る」となると話は別だ。
区立中央図書館が主催する講座、「作って楽しい!解いて楽しい!クロスワードパズル」(全2回)に参加した。作り方を教わり実際にやってみると、解くより楽しい。
教えてくれたのは、パズル雑誌編集長、株式会社ニコリの安福良直氏。世界一大きいクロスワードパズルを作った、ギネス記録保持者だ。パズルの大きさは、縦1m、横13m。マスの数は、263,694。パズル作家30人が、3年かかって完成させたと言う。面白そうな講師に期待が高まる。
はじめに、クロスワードパズルの歴史について触れられた。イギリス発祥で、1924年に日本に入ってくる。翌年「サンデー毎日」に掲載されると、たちまち大流行したらしい。その後も、40~50年毎にブームが訪れていると言う。100周年となる今年あたり、ブームが再来するのでは。
つづいて、作り方の説明に入る。最初は3マス×3マスの一番小さいパズルを作る。すでに中央のマスが黒く塗りつぶされていて、1から4の番号も振られている。さっそくワードを考える。ヒントまで浮かぶ言葉がよいそうだ。
講師がアイデアを募る。最後列に座っていたので、参加者の様子がよく見えた。斜め前の老紳士を除いて、18名の参加者は一様に控えめである。思い浮かばないのか、遠慮しているのか、誰も顔をあげない。だが忖度している時間はない。手を高く挙げ、老紳士と競うようにアイデアを出す。たちまち8つのマスは、アタマ、マイゴ、アサヒ、ヒマゴ、というワードで埋められた。
つぎに「カギ」を考える。同音異義の言葉がある場合、どの言葉でカギを考えるのか。ヒントに「ひねり」を加えるのか、「ストレート」にするのか。今回は、ヨコのカギはストレート、タテのカギはひねることにした。
タテ1のカギ、「新聞にもビールにもあります」。
タテ2のカギ、「犬のおまわりさんを困らせる子猫ちゃん」とし、完成。
創作過程の楽しさに、すっかり夢中になっていた。
こんどは5マス×5マスのクロスワードパズルを作る。25マスは真っ白で、黒マスを決めるところから始める。ルールは2種類ある。最初に決めてしまう方法と、作りながら決める方法。ニコリでは、前者を勧めている。
さらにニコリ式は、黒マスを点対称に配置させる。そうすれば、盤を180度回転させても黒マスが同じ位置にあり、「キレイ」なのだそうだ。美的追及と言うと大げさだが、シンプルな考え方が気に入った。
「入れたい言葉、ありますか?」。安福氏が尋ねる。手を挙げ「セツブン」と答えた。その日が2月3日だったからだ。「いいですね。ンで終わるので、下の方に入れることにしましょう」。5段目は「■、セ、ツ、ブ、ン」となった。
前述の通り、黒マスは点対称で決められていく。左下の角が黒マスになったので、右上の角も黒く塗る。つづいて2行目の左から2列目、3行目の左から3列目、そして4行目の左から4列目も。こうして点対称の配置が完成した。
言葉が入ると、カギを考える前に「番号」を振る。ニコリ式の番号の振り方は、左上から、縦方向に進める。タテとヨコのワードに注意しながら、1から11までの数字を記入した。単純そうだが、抜け漏れなく数字を振るのは意外と細かい。地味だけれど重要な作業には慎重さが求められる。明らかに、脳みその、言葉を考えるのとは別の部分を使っている感じがする。この、作業の多様性が、パズル製作をより面白くしていると感じた。
参加者全員でパズルを完成させると、2時間の講座はあっという間に終わった。そして来週までの宿題が出される。7マス×7マス。当然ながら、難易度はマスの数に比例して上がる。はじめは「しりとり」の要領でサクサク言葉を入れられる。だが、次第に制約が増えてくる。ああでもない、こうでもない、という試行錯誤を繰り返す。完成したときの達成感は半端ない。もはや、クロスワードパズルは解くものではなく、作るもの。創作好きなら、断然、解くより作るほうが楽しめるのだ。
作ったパズルを発表する場はあるかと尋ねると、雑誌への投稿を勧められた。よくできているものは雑誌に掲載され、謝礼が出ると言う。帰りに本屋に寄ってニコリのパズル雑誌を探す。あった。季刊発行されていて、巻頭ページには13マス×13マスのパズルが並ぶ。よし、いっちょ投稿してみるか。
パズル作家デビューの日はそう遠くない、かもしれない。