稀有な資質×定番の振る舞いが価値を生む──『1兆ドルコーチ』読書感想文
書籍データ
ウィリアム(ビル)・キャンベルの仕事術紹介──いや、人物紹介かな。
内容についてはChapter1で著者自身が語っている通り。
「そんなことはない」とこの段で著者は最終結論づけているが、それでもビルの稀有なキャラクターは真似できるものではない。
そもそも稀少でなければ、"1兆ドル"と銘打たれるほどの価値はつかない。
その1兆ドルコーチが残してくれた教訓の中から学びや共感ポイントを、まずは取り上げていこうと思う。
※ビル個人のキャラクターに寄りすぎているなと思う部分は省いています。
ビルの仕事術
人がすべて
どんな会社の成功を支えるのも人
部下をやる気にさせ、与えられた環境で成功させるかがマネジャーの役割
独裁者のようにああしろこうしろと指図するのではなく、耳を傾けて注意を払い、自分は大事にされていると部下に実感させることが重要
自発性をどう引き出すか
楽しい職場環境がパフォーマンスを生み出すことを理解し、積極的に雑談する
実施部分だけでなく「なぜ」「何を」「どのように」などの計画部分から意見を求める
マネジャーのあり方
課題のあるまずは猶予(チャンス)を与え、達成しなければそこで決断する
特に答えを持っている場合、部下の議論に口を挟まず最後に発言する
正解はないが、自分たちにできる最善の決定を下し、前へ進む
プロダクトが生まれる現場をなによりも優先する
マーケティングに困ったら、現場のアイディアを聞いてみれば良い
プロダクトチームは最初からその他のチームと協力し、部門横断的なグループの一部として、問題解決や機会創出につながるような斬新なアイデアを推進する必要がある
うまくことを進めるには
会議の報告にはハイライトだけでなくローライト(うまくいかなかった部分)の報告を含める
同じ程度の実力を持ったペアで仕事にあたると、チーム力が向上する
ビルという人
記事のはじめに取り上げた部分に書かれていたように、ビルが行ってきたのは「非常にシンプルな仕事術」だ。
彼を唯一無二の存在にたらしめていたのは、ビジネスのセオリーを知り尽くした上で、自分自身のキャラクターもよく理解し、実行に際してそれを最大限に活用したという部分。
王道の徹底 × 個性の発揮。これがビルの強みだったのだと思う。
その人となりについては、率直さがありつつ人の心をよく知っている人だなというのが、本書から私が受けた所感だ。
ビルは信頼に足りる人物を見極め、その人に最大の敬意と愛を注いでいた。知性があり、勤勉で、誠実で、打ちのめされても立ち上がり、トライする情熱と根気強さを持つ。このような人物をしっかりと見極められる力を持っていたのだと思う。
それと同時に、人間というものをよく理解している人でもあった。人にはそれぞれ動機がある。お金、目的、プライド、野心、エゴなどが複雑に絡まって存在する。彼は常に他者という存在を軽んじることなく、他者への好奇心を常に持ち、他者を知った上で最適なガイドをつとめた。
彼が類い稀なるセンスを有し、コーチとして求められていた力というのは下記に書かれている部分だろう。
この役割はどのような組織にも必要とされるのに、スポットライトの当たらない黒子のような存在であることが多いから意外に明るみに出ることはない。
でも、ビルの人生がその重要さを証明してくれている。
さいごに
世界中から優秀な人材の集まるシリコンバレーだから言えることなのだとか、「Don’t fuck it up!」と"素直に"罵ってなお人を惹きつけてやまないビルの人物的な魅力がなせる技なのだとか。
そういうことがこの本で語られていることの全てだと言って終わりにするのはもったいない。
誠実に物事に向き合うことで本質を見極め、
コミュニケーションを積極的に行うことで他者を理解し、
愛を持って率直に語り、決断と行動を厭わない。
このどれか一つでも実行に移すだけで、周囲との関係が劇的に変化する可能性があるのではないかと思う。
その際は、くれぐれも自分のキャラクターに一番あった方法で。
ビルの「愛情たっぷりのコーチング」は、この世に本人がいなくなってなお、たくさんの人の心に影響を与えている。
『われられないおくりもの』のアナグマのように。
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