日本とアフガニスタンの女の子たちをつなぐ(監督出演特別企画@麹町学園)
映画『ブレッドウィナー』は、アフガニスタンの11歳の少女を主人公とする物語です。主人公・パヴァーナと同じ年代の日本の女の子たちに「世界の女の子たち」へ思いを寄せてもらおうと、麹町学園の女子中学生・高校生の方向けに、特別イベントを開催しました。
イベントのなかでは、映画を鑑賞してもらったあとに、先生から、世界の子どもたちの就学率や識字率に関するクイズがあり、その後、日本国際ボランティアセンター(JVC)さんから、アフガニスタンの「今」について、また活動している取り組みについてなどをお話いただきました。
そして、最後に、アイルランドのノラ・トゥーミー監督とインターネット電話をしました!ここでは、そのなかでトゥーミー監督が話した内容の概要をお伝えします✏️
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まずは映画の制作背景について
アニメーションというのは、たくさんの人との共同作業があって出来上がるものです。この作品にも約300人の人が様々な形で関わってくれました。
4秒の動画をつくるのにも、アニメーターが絵を描くのに1週間ほどかかります。最終的にこの作品は脚本を考えた段階から、完成までに4年の月日がかかりました。
でも、それだけの長い時間がかかったことは、この作品にとってよかったと思っています。難しい題材の物語だからこそ、いろんな政治的な考えを持った人や、いろんな宗教の人が話し合いながら共同作業を進めて作り上げることに、すごく意味があったと思うので…。
アニメーションはいろんな絵をただ繋げているだけに見えるかもしれませんが、その絵に”生命を吹き込む”のが、今回はすごく大変でした。「ただの絵」の女の子だけど、その子にも生活があり、背景があるのだと感じて欲しいからです。映画を見た人が、そのキャラクターに共感をしてくれることが大事だと思ったので、スタジオジブリの「火垂るの墓」を参考にしていました。
この作品はデボラ・エリスの書籍をもとに作っていますが、少し改変をしているところもあります。たとえば、書籍は2000年に書かれているので、タリバンのお話が中心ですが、私たちはそれだけではなくて、その前のロシアに占領されていた時代のことや、2000年から今までの物語も組み込むことにしたんです。なぜなら今も続いている問題だから…。過去から今、そしてこの先のことも含めた物語にしたいと思いました。
【生徒さん質問: パヴァーナは映画の後にどうなった?】
この映画の終わりはみなさんの解釈に任せたいと思っているんです。
原作のほうは、この物語の後に2冊、続編が出されていて、パヴァーナのその後を描いています。
私たちもエンディングについては、とても悩みました。とても大変な経験をしている女の子だけど、最後に希望をもって終わらせたいと思ったからです。プロデューサーのアンジェリーナ・ジョリーともたくさん相談をして、原作や実際のアフガニスタンの史実に敬意を払い、みなさんの想像に委ねながら希望も持たせる終わりにしました。
一般的な起承転結のある物語ではなく、はじまりがあって、真ん中があって、最後はみんなの想像に委ねるという形にしているからこそ、みんなにもっと考えて欲しいし、この物語に関わって欲しいと思っています。
【生徒さん質問:世界で紛争が無くならないのは何故だと思いますか?】
世界が人間で溢れているからですかね(笑)。
今の時代は100年前と比べたら平和になっていると言われています。私たちは昔と比べれば少しは大人になっていると願いたいです。
世界の紛争がなくならない理由の一つは、政治家の任期ではないかと思います。たとえばアイルランドなら、1度の任期が5年。政治家の人たちは、その5年間のことしか考えていないからではないかと思います。でも環境問題とか、社会における問題は、より長い目で考えないといけないものも多いですよね。
私はみなさん、若い世代に希望を持っています。環境活動家のグレタさんのように、怒りのボルテージをあげずに、自分の声を使って発言をしていく…。その声を大事にしていって欲しいと思っています。みなさんの世代は、いろんな情報を入手する手段を持っていると思うので、よりよい判断、より良い発言をしていけると願っています。
【生徒さん質問:「火垂るの墓」のどういうところに影響を受けたのですか?】
まずは私たちのスタジオ「カートゥーン・サルーン」自体がジブリの大ファンなんです。
私も映画監督として、「手書きのキャラクターにどこまで共感を誘えるか」を今まで大切に考えてきました。
「火垂るの墓」は共感を誘うとても力強い作品で、私も見ていて、これが手書きのキャラクターだということを忘れてしまうぐらい、すごく感情移入ができる映画だと思っています。そしてこの作品も、子どもが物語の真ん中にいるという点からも、今回の作品作りの参考にさせてもらいました。
あまりにも悲しくしすぎても観客の共感を得づらくなると思いましたし、多少なドライな要素も含んでいいのかなと思ったり…そのバランスや範囲を考える上で、いつも「火垂るの墓」を参考にしました。
【生徒さん質問:どうしてアフガニスタンを舞台として選んだのですか?】
私がアフガニスタンを選んだというのではなく、原作の舞台がアフガニスタンで、その本が自分のもとに来てくれた…という感じです。
プロデューサーが原作を私に渡してくれて、読み始めたら止まらなくなって一晩で読み終えてしまったんです。こんなに素晴らしくて、少し難しくもある話を、伝える機会を逃したくないと思ったんです。私は「ちょっと難しそうだな」と思うようなものほど、伝えるべき物語だと感じるので。
私も2人の息子がいますが、その息子たちもきっと気に入ってくれる作品にできる気がしましたし、一方で、プリンセスやヒーローのような夢物語ではなく、現実の難しさを伝える物語だと思ったので、この作品の制作に関わるチャンスを逃したくないと思いました。
画本作家のトミ・ウンゲラーから、「自分がやっていることに疑問を抱くようであれば、それは進めるべきプロジェクトではない。逆に、やりたいことがあったら、ただやるべきだ」と言われたこともあって、この作品は、迷わずやろうと決めたのです。
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イベントの最後には、「パヴァーナに宛てたお手紙」を書いてもらいました。みんなの思いが、"世界中のパヴァーナたち"のもとへ届きますように。
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