栫伸太郎

詩人。東大詩人界、早稲田詩人会所属。 2022年度南日本文学賞、口語詩句賞奨励賞。「川…

栫伸太郎

詩人。東大詩人界、早稲田詩人会所属。 2022年度南日本文学賞、口語詩句賞奨励賞。「川柳句会こんとん」第二回大賞。 twitter: @skwakoi

記事一覧

詩「pile」

現代詩手帖2024年5月号選外佳作(峯澤典子,山田亮太選) pile 栫伸太郎 日が、樹が伸びるように 押すようにのぼり ひかりを差しむけ、分岐させこじあけ 空に無数の見え…

栫伸太郎
2か月前
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詩「than」

現代詩手帖2024年3月号選外佳作(峯澤典子選) than 栫伸太郎 小田原城の水濠の 隅に 浮かんだ桜の花びらが流れつき かたまっていた そこを一羽の鴨が横切る  水濠の…

栫伸太郎
4か月前
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詩「tread」

現代詩手帖2024年2月号選外佳作(山田亮太選) tread 栫伸太郎 風がこわれていると お前はいう こわれたまま素早く横切っていく 夜の 広いアスファルトの上を、 両端か…

栫伸太郎
5か月前
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詩「tilt」

現代詩手帖2024年1月号選外佳作(峯澤典子選) tilt栫伸太郎 黒くなった土を、はじめ足元に やがて少しずつ広くなる眼下に収めながら まだあたらしい靴で 濡れたジャング…

栫伸太郎
6か月前
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詩「七月の見えない点景」

『ユリイカ』2023年9月号佳作(大崎清夏選) 七月の見えない点景 栫伸太郎 七月の 窓の外に 空気がある 窓の中にも 空気がある 暗くなってきたので 窓を開ける 外の方…

栫伸太郎
10か月前
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詩「円いやみ」

現代詩手帖2023年7月号選外佳作(山田亮太選) 円いやみ 栫伸太郎 水平線、 ぼ 僕は誰に も たどり着く ことが出来ないあな たを 回り続けるこ としか出来 ない…

栫伸太郎
1年前
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詩「歯列イール」

現代詩手帖2023年5月号選外佳作(小笠原鳥類選) 歯列イール 栫伸太郎 頭を左右にちゅうくらいに振りながら いづれかの椎骨とまっすぐな散歩にでかける 三倍体の僕の部…

栫伸太郎
1年前
9

詩15篇「雨雨」(2022年度南日本文学賞受賞作)              栫伸太郎

2022年度の南日本文学賞受賞作、詩15篇「雨雨」を公開いたします。 (noteの文面では元の書式が一部反映できなかった部分があるため(特に「泡にかんするー」と「天空と…

栫伸太郎
1年前
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詩「pile」

詩「pile」

現代詩手帖2024年5月号選外佳作(峯澤典子,山田亮太選)

pile

栫伸太郎

日が、樹が伸びるように 押すようにのぼり
ひかりを差しむけ、分岐させこじあけ
空に無数の見えない傷をつける
その線状の色からにじみだした手として
冬は ぎざぎざにやってくる、鳴き声を
あげて、その軌道の肌理(と勾配、
鋸歯状に波打ってかたまった布団の上で
黒くなって目を覚ました、縮こまった
鼻が詰まっている僕の体

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詩「than」

詩「than」

現代詩手帖2024年3月号選外佳作(峯澤典子選)

than

栫伸太郎

小田原城の水濠の 隅に
浮かんだ桜の花びらが流れつき
かたまっていた
そこを一羽の鴨が横切る 
水濠の隅から中心へ
三角形にたまった桜の花びらをまっぷたつに
 わって
つうと進んでいく
佇むもろい桜色の中央に
深いみどりの線がひかれ 残されていく
そのときに 君にあいされているとわかった
城の中は水溜りがおおくて
きっとそ

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詩「tread」

詩「tread」

現代詩手帖2024年2月号選外佳作(山田亮太選)

tread

栫伸太郎

風がこわれていると
お前はいう
こわれたまま素早く横切っていく 夜の
広いアスファルトの上を、
両端から引っ張られるように
道も、空気も平たい
川は鉛筆の芯のように淋しくくろく
零されたように
ひちひちと歩く 
お前が今ここにいないということを、私は
理解できているのだろうか
雲がやけに明るく
空にも起伏や勾配があるとい

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詩「tilt」

詩「tilt」

現代詩手帖2024年1月号選外佳作(峯澤典子選)

tilt栫伸太郎

黒くなった土を、はじめ足元に
やがて少しずつ広くなる眼下に収めながら
まだあたらしい靴で
濡れたジャングルジムをのぼる
ブルーグレイの  ふりつもった 
弱い
ちいさな火薬の山のような早朝の空気を 
植物や遊具や地面に
少しずつなでつけるような 
たくさんの 
遠い窓が見える、 見られる場所にいる
ベランダや鉢植えに 囲まれて

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詩「七月の見えない点景」

詩「七月の見えない点景」

『ユリイカ』2023年9月号佳作(大崎清夏選)

七月の見えない点景

栫伸太郎

七月の

窓の外に
空気がある
窓の中にも
空気がある

暗くなってきたので
窓を開ける
外の方が涼しいので
窓を開けておく

部屋は
すぐには涼しくならない
時間がかかる

部屋の温度は
時間に守られている
僕の体の温度も
時間に守られている

時間をかけて
この部屋の温度の一部は 
僕の体がつくり
僕の体の温度

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詩「円いやみ」

詩「円いやみ」

現代詩手帖2023年7月号選外佳作(山田亮太選)

円いやみ

栫伸太郎

水平線、 ぼ 僕は誰に も たどり着く
ことが出来ないあな たを 回り続けるこ
としか出来 ない僕 はシャツを 
もらえない個だい くつもシャツを吐き 
出してきた紅葉 を強要するように気
圧が侵 略し てくる 僕は絶対的に一つ
だ僕は何 よりも巨きい 何よ 
りもくらい一 つの歯一 つの舌 僕は伸
びる伸び続ける僕 は乱

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詩「歯列イール」

詩「歯列イール」

現代詩手帖2023年5月号選外佳作(小笠原鳥類選)

歯列イール

栫伸太郎

頭を左右にちゅうくらいに振りながら
いづれかの椎骨とまっすぐな散歩にでかける
三倍体の僕の部屋には三倍体の(側切歯状の)
じゃがいもみたいな何かがオニヒトデ
の中身を抓るように放射状に増殖し続
けている あるいは自らの側扁な虹彩の中身
を運びこみ
     続けている、米の鱗のようなクエ、
ミゾゴイその他蟠った車道外側

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詩15篇「雨雨」(2022年度南日本文学賞受賞作)              栫伸太郎

詩15篇「雨雨」(2022年度南日本文学賞受賞作)              栫伸太郎

2022年度の南日本文学賞受賞作、詩15篇「雨雨」を公開いたします。
(noteの文面では元の書式が一部反映できなかった部分があるため(特に「泡にかんするー」と「天空とその模写」)、PDFでの閲覧をお勧めしています。)

75.1
風は草むらの中に口髭をたくわえた
その猫たちは尻尾を立てて歩き去る
乱れた毛皮を連れて
私たちよりも地面に近く
風を目に映して 
風は進み
風はその後を追う 
    

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