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詩「tilt」

現代詩手帖2024年1月号選外佳作(峯澤典子選)

tilt

栫伸太郎

黒くなった土を、はじめ足元に
やがて少しずつ広くなる眼下に収めながら
まだあたらしい靴で
濡れたジャングルジムをのぼる
ブルーグレイの  ふりつもった 
弱い
ちいさな火薬の山のような早朝の空気を 
植物や遊具や地面に
少しずつなでつけるような 
たくさんの 
遠い窓が見える、 見られる場所にいる
ベランダや鉢植えに 囲まれている まだ
早いので
電気のついた窓は
飛び散った、
飲み残された牛乳のように まばらで
その配列を一つずつ、
押しつぶすように指でかくしながら
一番高いところに座る  手に砂が少しだけ
ついていて 
この手の凹凸を縁取るには
あまりにも不十分だ
隙間だらけの 
ほとんど隙間でできている ジャングルジム
の 
上から見る
空は 残っていた恒星を静かにとかしながら 
あおくなっていく
それは薄くなることだ 黒い密度の幕を
奥のほうへと引きづっていく力と時間。 
日光にさえぎられて、ここから見られるほと
んどの宇宙が みえなくなる昼 
にむかって、
ジャングルジムの骨を滴りおちる水
やがて音もなく蒸発し
けたたましい音の一粒としてまた
降ってくる 水分
重力とたわむれるように変容しつづけるその
肌を思い描いて
背中をそらす
白昼夢のようにぽっかりと丸く切りとられた
空と公園
お腹が空いている と気づくために
他には誰もいない、この場所は、この場所で
ないものに 囲まれ、
かかえこまれ、 
頭を擡げるこの、気温のようにいま
やわらかく、あまく衰弱するように
ひらかれ ていく
もう少しすれば誰かはいってくるだろう
ジャングルジムを降りて、すこし声を
出してみる、かすれてない
道に 数えられるほどの
枯葉がおちている  気づかれないものは、
        あかるいまま 
どこかで濃縮している 
その帯状の気配と、差異ときおく
眠い
ねむい
体の さまざまなところが痺れていて、
いたみを避けて体を曲げるように、太陽が

 ぼっているから
あたたかく、たおやかにあたまがのびていく
ように、安らかに 苦しい。
すべり台によこになる (木が揺れている
ずり落ちていく  未来と
そのほか重さのあるもの
きまじめな
傾斜に身をあずけて  視界やかんがえが
洗われることとまめつすることの間で
白くなっていく
まだ、何かをみうしないたい     のか

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