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【ショートショート①】『半年タイムマシン』

SS「半年タイムマシン」

マルティン☆ティモリ


博士の「半年タイムマシン」が完成した。

博士は僕の隣人。回覧板を持っていくとドアの向こうに満面の笑みの博士。

「ついに完成しましたじゃ!半年後の世界と繋がるタイムマシン。凄いマシンなのに、ほれ、何とこんなにもコンパクト!」

博士が手のひらをひろげると、そこには20本入りタバコケースくらいの直方体の金属の箱。

「さ、幾つかあるから、あんたもひとつ持っていきなされ」

随分と簡単にゆずってくれた。

でも一体これでどうやって半年後の世界に行くのかと訊いたら、それは不可能。半年後の世界へと通じているのは箱の中央に空いてる直径1センチくらいの小さな穴とのこと。これでは未来へ送り込むのは虫けら1匹がやっとだろう。

穴を覗けば未来が見える?うん、確かに、今は冬だが穴の向こうは雲ひとつない夏空、耳を近づけるとかすかに蝉の声も聞こえてくる。でも結局はそれだけのこと。半年後の未来ではこの穴はどうやら野外の鉛直上方へと開いているらしく、見えるのはただただ空ばかり。

まあ、こんなものでもそのうちに有効な使い方を思いつくかもしれないな…僕はマシンをジャンパーのポケットに入れる。博士の家を辞し、昼時なので行きつけの大衆食堂にはいった。

がらんとした食堂内はテレビの音だけがうるさい。
地べたに置かれたたったひとつの石油ストーブは隙間風の寒さに対抗できるだけの熱量を提供していない。

と・こ・ろ・が!

おお、手を突っ込むとポケットの中がポカポカと暖かい。

タイムマシンが半年先の未来から、夏の熱風を運んでくれているのだ!

「うん、これはいいぞ!少なくともカイロとしては使えるな」

ちょっと愉快な気分になって今日は特上の肉うどんを注文し、ポケットからマシンを取り出してしげしげと眺める。

穴の向こうは相変わらずの青空…あっ、否、そうじゃない。いつの間にやら灰色の空、やがて穴から細かい砂埃が噴き出した。

テレビの音声が速報ニュースを告げる。

「今、NASAから発表がありました。地球に激突する恐れのある小惑星が発見されたようです。発表ではこの天体の地球への衝突は今から丁度半年先になるとのこと…」



終わり

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