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スペシャリスト志向か、ゼネラリスト志向か

 前回までの記事<転職準備で「WILL」を言語化する>では「WILL」を言葉にする2つの方法について説明しました。
 今回は、転職の最初の分岐点「スペシャリスト」志向か「ゼネラリスト」志向かについて考察します。仕事の「WILL」は、スキルや経験に寄りがちです。しかし、それ以外の「WILL」を検討することが大切という話です。

 医師転職を考えるときの最初の分岐点は「スペシャリスト」志向か、それとも「ゼネラリスト」志向かです。

 たとえば消化器内科で、普段BAEやEUSを行っている先生は、自分を「スペシャリスト」だと思っていないかもしれません。でもBAE、RFA、EUSといった手技を活かせる職場は、大学病院や急性期病院に限られています。

 それ以外の病院では、そもそも「ダブルバルーン内視鏡」や「超音波内視鏡」のような機材は導入されていません。対象症例数が少なく採算がとれないからです。もし、先生がこうしたスキルにこだわりがあるなら「スペシャリスト」志向に分類されます。

 「スペシャリスト」指向の医師なら、国内留学や海外留学など武者修行をしたり、大学医局で生き抜く道が順当です。ただご存知のように、スペシャリストのポストはそんなに多くはありません。

スペシャリスト求人は限られる

 大学病院などの特定機能病院や病床数の多い急性期病院は、大学医局と密接な関係にあり、常に若手医師が医局から派遣されます。当直やオンコールは必須で、総じてワークライフバランスが「きつめ」の職場です。

 厚労省のデータ「施設の種別にみた医師数」をみると、大学関連病院で働く医師の平均年齢は39.1歳で、30歳代が全体の42.2%を占めています。
 ここをピークに40~49歳では23.4%、50~59歳は11.4%、60~69歳は4.5%と10年ごとに在籍医師数は半減します。つまり40歳を過ぎて「専門治療の環境」に残る医師は5人に1人。10~20年後に、そこに「自分の居場所」があるかどうか心許ない数字です。

 多くの医師は大学を卒業して「スペシャリスト」が「あたり前」の世界で育ちます。消化器内科なら消化管、胆膵、肝臓の各領域で臓器ごとに研鑽を積み、さらに細分化した「スペシャリスト」を目指してスキルアップに切磋琢磨します。そうした医師の「WILL」は当然「スキルアップ」です。

 ただし転職を考える頃合いになると、そろそろ「スペシャリスト」の競争から身を引くつもりでいることでしょう。前述のとおり、専門治療の道は狭いため「ゼネラリスト求人」を検討することになります。しかし、この時点で、バイト先以外の病院が何をしているか詳しく知る人は多くありません。

 そうした医師にエージェントから「ゼネラリスト求人」が提案されます。
まず驚かれるのは、自分の強みの「EUS」や「BAE」のスキルが「使えない」ことです。内視鏡に特化した募集すら少ないことに茫然とされるでしょう。頭では理解していたはずですが、大袈裟にいえば「WILL」が砕け散る瞬間です。

 軽いショック状態の先生に「高年俸の内視鏡専門クリニック」の提案があるかもしれません。とても魅力的ですが、エージェントの誘いに乗るのは、ちょっとだけお待ちください。詳しくは次回で説明します。
 いずれにしても、前回記事で説明したように、仕事以外にも「WILL」を言葉にしておくことが大切です。そうすれば「別の光」が差してくるはずです。

ゼネラリスト求人で求められるもの

 「ゼネラリスト」求人について、その内容を簡単に説明します。
ゼネラリストとは「一人で複数の役割を担う医師」のことです。嫌な言い方で恐縮ですが「スペシャリスト」志向の医師は持て余されます。
 ゼネラリストは、クリニックから病院まで幅広く募集されています。専門領域を含めて「内科全般」の診療を幅広く行います。ゼネラリスト求人をする病院には、社会的、経済的に様々な背景のある患者が集まるため、医師には多様な対応が求められます。

 たとえば、消化器内科なら、専門外来や内視鏡検査があってもなくても、一般内科の外来と病棟管理があり、併せて週1~2コマの訪問が求められるでしょう。病棟に地域包括ケア病床があれば、サブアキュートの急変対応と入退院の判断、病棟スキルなどが評価のポイントになります。
 消化器系に重点のある求人があれば、求められるスキルは以下のようなものです。

上下内視鏡検査(人間ドックを含む)
EMR(一部の内視鏡専門クリニック等ではESDも実施)
ERCP
PEG
軽症IBDの対応

 このなかに、先生が許容できる程度の手技や検査数があれば、転職先として候補に入れることができます。実際はこちらの求人のほうが「より高い評価」をうけます。ただし最新の医療技術や治療法にアクセスする機会は減るので、スキルアップは自己責任で行わなければなりません。

中年以降の医師の転職ニーズにフィットするゼネラリスト求人

 ゼネラリスト求人は、急性期に比べると勤務時間や当直の調整が可能で、プライベート時間を確保しやすい特長があります。つまりゼネラリスト求人は、中年以降の医師にとって魅力的な選択肢です。当直やオンコール免除の可能性も高いので、全体でペースは落としながら、やり方次第でスキルを維持する希望を叶えることもできます。

 もし、キャリアアンカーで「専門・職能別能力」の次に「保障・安定」が高いなら、生活の安定感を重視しつつ、スキルの維持ができる方法を考えます。極端な例では、内視鏡のない職場で週4日勤務し、1日を内視鏡の外勤にあてるやり方もあります。

 そもそも、医師になると決めたときを振り返ってみましょう。
「いずれ地域医療を担いたい」「臨床で誰かを助けたい」という「思い=WILL」があったなら「ゼネラリスト求人」は検討に値するはずです。
 転職前にこれらの求人ニーズを検討して、今から「スキルセットの幅を広げる」準備を考えることも「有り」です。このように、転職の準備段階で、仕事以外の「WILL」を考えることは大切です。

次回は「高年俸の内視鏡専門クリニック」の動向と何に留意すべきかについて説明します。

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