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医師転職で「コミュ力」が重視される理由

 前回<コミュニケーション能力とは何を指すか>では、コミュニケーションスキルを「階層構造」で把握しました。
 今回は「コミュ力」が、リスクヘッジの視点で注目される理由と、スキルにすぎない「コミュ力」が、医師の人間性や信頼性を示す指標になることをお伝えします。

「コミュニケーション」不足の医師を除外する病院

 医師転職では、リスクヘッジの観点から「コミュ力」に注目します。
前回記事でも触れましたが、「コミュ力」不足の医師を採用したために、既存の医師やコメディカルに辞められた「痛い経験」した病院は少なくありません。加えて「医療事故」リスクを回避するという「防衛本能」も働きます。チーム医療では「コミュ力」不足が「医療事故」につながることが知られています。

「コミュニケーション・エラー」が医療事故の原因

 米国では、医療事故原因の7割が「コミュニケーション・エラー」という報告があるようです。我が国でも、医療事故・インシデントの原因が、医療現場におけるコミュニケーション・エラーであることが知られています。
日本医療機能評価機構の2022年の年報では、医療事故発生要因の約半数以上の要因が「コミュニケーション・エラー」に絡んでいます。

日本医療機能評価機構 医療事故情報収集・分析・提供事業(2022年)

 医療事故の多くは、単独要因より複数の不幸な要因が連鎖して発生します。もし個人の「コミュニケーション・エラー」があったとしても、チーム内には複数の「防護壁」が設けられ「連携」があれば「リカバリー」できます。しかし、チームが柔軟性を欠いて「誰も何も言わないのだから、これで間違いないだろう」と、チェック機能が働かなくなると医療事故の可能性が高まります。医療事故が「チーム・エラー」とされる理由です。

 この「チーム・エラー」すなわちチーム内のコミュニケーションに大きな影響を与えるのが、チームリーダーである医師の「コミュ力」です。
 オープンな発言が許されないチームでは、情報や意見が正しく共有されず、指示やフィードバックが曖昧になります。その典型を「怒鳴る」医師「コミュ力が低い」医師にみることができます。

「怒鳴る」医師、「コミュ力が低い」医師

 「怒鳴る」医師は周囲を緊張させるため「コミュニケーション・エラー」を引き起こします。チーム内に強い「プレッシャー」が継続すると、コメディカルが萎縮します。度が過ぎるとやがて離職していきます。
 病院は慢性的な人手不足で、コメディカルの採用に苦労しています。もし集団で離職されるくらいなら「怒鳴る」医師に「お引き取り願う」のが一般的な判断です。

「コミュ力が低い」医師は、話しにくい雰囲気を作って情報共有を阻害します。メールやチャットで意思疎通できれば、まだ「マシ」ですが、誤解やミスから「エラー」を生じやすくなります。もともと「コミュ力が低い」ので、問題が起きたら「心ない発言」をしてチーム内を炎上させます。
 両者とも、前回紹介した「コミュニケーション基本スキル」の「自己統制」スコアが低い医師です。病院は、こうした医師の採用を回避したいので、面談で「前職のコミュニケーションのエピソード」を詳しく質問します。

面談で「コミュ力」をどう確認するのか

 面談では、医師の「コミュ力」を評価するために
・こちらの話を遮らないか、相手の話を聞く姿勢があるか(解読力)
・表情や身振りが自然で豊かであるか(表現力)
・自分の考えや意見を適切に伝えることができるか(自己表現)
といったことを雑談しながらチェックします。「こんな時はどう思われますか」という「状況を設定した質問」も行われます。
 しかし、面談では和やかな印象でも、採用したら態度が変わる先生も多く、採用担当は面談だけで確証は得られません。結論を言えば、採用しても大丈夫と判断できそうなのは、自分の経験から主体的な「エピソード」を語れる先生です。

 面談にあたって、次のような「エピソード」を用意しておくようにしましょう。まずは、前回説明したようにエピソード内容を「思い」「行動」「その結果」「振り返り」の4つの要素にわけて簡潔にまとめます。下に例をあげておきます。

【思い】  担当患者さんのことで、看護部との「すれ違い」をなくしたい
【行動】  自分から声掛けして「どう考えているのか」を聞くようにした
【結果】  患者さんが私に話していない本音を看護師に漏らしたようで、この情報をもとに診察時に患者さんと相談して治療方針を検討。それ以降、看護部との「すれ違い」が減った
【振返り】 指示出しと受けだけでなく、看護部との「情報共有」が大事

 上記のようなエピソードを思い出して「具体的に語る」ことが面談のポイントです。

医師の「コミュ力」は、人間性や信頼性を示す指標になる

 医師の「コミュ力」というと、患者コミュニケーションに目が行きがちです。もちろん患者さんとの間に信頼関係を築き、治療に積極参加してもらうのに必要なスキルです。しかし、これを実現する医師は、コメディカルとの関係を上手く築きます。彼らから患者さん情報を得て「より良い治療」につないでいるからです。
 「コミュ力」はスキルのひとつにすぎませんが、チームで「よい治療」に貢献できれば、結果として医師の人間性や信頼性の高さを示す指標になります。

 「コミュ力」が指すものは様々です。先生が強みとする「コミュ力」はどんな場面で発揮されるのかを「具体的なエピソード」にすることが重要です。チーム医療をリードして、コメディカルと協働できる「コミュ力」を持つ医師は「転職でかなり高く評価」されます。

面談テクニックのみの乱用はご法度

 「エピソードを語る」とは、相手に「採用しても大丈夫な根拠」を与えるテクニックです。これを使って、好条件で転職した先生がおられました。しかしエピソードが「盛り過ぎ」です。当然、採用先で「期待されたコミュ力」は発揮されません。これが後々にクレームになります。
 「面談はプロ。でも仕事しない先生」としてお名前が知れ渡りました。私にまで噂が流れるくらいです。ご注意ください。

 一方で「私にはそんなエピソードはない」と思われる先生も心配無用です。コメディカルに「笑顔で挨拶しよう」と決めれば、それだけで「コミュ力」のある先生と認識されます。コストをかけなくても情報が集まりだすと思います。

 今回で「フレームワークで整理する」は終了です。

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