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フレームワークで自己分析する意味

 前回は、医師転職における「3つの転職戦略」で「転職の進め方」について紹介しました。今回から「転職準備」について考えていきます。
転職準備の第1フェイズは自己分析です。
まずは「WILL-CAN-MUST」のフレームワークで自分を整理しておきましょう。

 と言いたいところですが、転職は新卒採用と異なり「やる仕事」が決まっています。特に医師採用では、科目別に求人するのが普通で「求める経験や資格」が明示されています。
 求人側は「この科目の仕事を任せられるか」を確認するので、履歴書に勤務歴や資格欄、発表論文が間違いなく書いてあれば、キャリアチェックはほぼ終了です。あとは面談でコミュニケーション能力やマネジメントスキルを確認し、その医師が自分たちの施設でやっていけるか「人間的な側面」をチェックします。キャリアチェックが通れば、よほどのNG医師でないかぎりは内定が出ます。

 一方、医師は転職にあたって「自己分析」する必要をあまり感じません。最強のライセンスを持つがゆえに「好条件の求人」を比較検討できるからです。エージェントも転職の希望を細かく確認しますが、医師の「キャリアデザイン」まで深く立ち入りません。本人が意識しない限り、転職準備の第1フェイズであるはずの「自己分析」は手つかずで残ります。

 自己分析とは、自分が何ができて、何をしたいのか、なぜそう思うのかを明確にすることです。特に「自分の価値観」は暗黙の了解で、ふだん言葉にする機会がありません。しかし、これを放置したままで転職を進めると、「求人施設の組織文化」と衝突する危険があります。

 たとえば、先生が「難しい手技や高度な治療をこなすのが良い医師」という価値観だとします。転職にあたり、「高度な治療」をこなすスキルが評価されて入職したのに、自分よりスキルが低い「患者コミュニケーションの上手い」医師が重宝されているならどうでしょう。実際に転職して、自分と違う「価値観や組織文化」の受け入れに苦労する医師は数多くおられます。「医師紹介業の舞台裏」でも述べましたが、自己分析(キャリアの整理や振り返り)を放置したままの転職は、最悪の場合「早期離職」を誘発しかねません。

「WILL-CAN-MUST」について

前置きが長くなりました。自己分析をする際に参考になるフレームワークとして、「WILL-CAN-MUST」という考え方があります。これはキャリアデザインに必要な要素を整理する方法です。

「WILL=やりたいこと」
「CAN=できること」
「MUST=自分がやるべきこと 」を表します。

この3つをバランスよく考えることで、やりがいや満足感を持った仕事ができるとされます。
 「WILL-CAN-MUST」は、リクルート社の従業員育成ツールとして知られ、各企業に広がったようです。それが大学生の就活や転職にアレンジされて使われています。オリジナルは不明で、その理論の根拠も諸説あるようです。

「WILL-CAN-MUST」を整理

 「WILL-CAN-MUST」の用語を整理しておきます。
そもそもの「WILL-CAN-MUST」は3つとも組織内部で完結しています。MUSTは企業・組織のなかで「自分がやるべきこと」で説明されます。
 新卒採用では「CAN=できること」は多くありません。そこで「MUST=自分がやるべきこと 」に対し研鑽しつつCANを大きくします。ある程度仕事ができるようになれば「WILL=やりたいこと」が意識されます。そのWILLにも必要なMUSTがあるので、またCANを増やす。やがてはWILLに向かって起業していく文脈です。
 医師の場合は、学生時代から「MUST=自分がやるべきこと 」が膨大で、かつ人命に関わるというシビアさがあります。

 しかし、就活や転職にアレンジされた時点で「MUST」は社会や外部が要請する視点に変わります。このため就活生や転職希望者には、次のようなに語られます。

「WILL=やりたいこと」に拘りすぎずに「MUST=自分が要請されること」の視点を持ちなさい。

 今回は医師の転職準備なので「MUST」は求人側の視点(必要条件)と定義しておきます。

WILL=自分がやりたいこと
CAN=自分ができること
MUST=求人側がしてほしいこと(必要条件)

「WILL-CAN-MUST」を言語化する

 医師転職では、「WILL-CAN-MUST」をそれぞれ言語化していきます。 WILLは「自分がやりたいこと」すなわち「転職してどうなりたいか」です。 希望条件はそれを実現するために必要な条件です。具体的には、勤務日数や時間、当直の有無や希望年俸などが中心になります。また組織文化やそこでの働き方が課題となる場合もあります。未来の価値です。

CANは「自分ができること」です。
取得した専門医資格、得意な手技やスキル。その症例数や経験年数など「職務経歴書」に表された内容や、コミュニケーション能力やマネジメント経験が中心です。こちらは数値やエピソードにして説明します。過去から現在の価値です。

MUSTは求人側がしてほしいこと(必要条件)です。
転職では、この「MUST(必要条件)」を「WILL-CAN」に照合していきます。ところが、医師求人票のMUST情報はかなり曖昧です。
 というのも、ほとんどの病院には医師採用の専任がおらず、情報発信やアピールが不十分だからです。紹介会社に依頼するだけのケースもあります。採用担当者がいても窓口業務だけで求人実態を把握していないことがあります。
 もし時間的に余裕があれば、入職前に非常勤で働いてみて偵察するのは良い方法ですが、忙しい医師にそんな余裕はないでしょう。

 「WILL-CAN」の言語化は自己分析で「MUST」の言語化が「病院分析」です。
転職準備の第2ステップは、求人票から洗い出したMUST条件と自分との接点探しをしていきます。この第2ステップの話に進むまえに、次回は、WILLとCANとMUSTのバランスについて説明します。


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