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【 『自省録』 レビュー】 古代精神のもっとも高貴な倫理的産物、心のコンパス

 ジョン・スチュアート・ミルは本書を「古代精神のもっとも高貴な倫理的産物」だといった。
ローマ最後の五賢帝である、哲人、マルクス・アウレーリウスが透徹した眼差しと限りないやさしさで、綴ったこの書物は、古来数知れぬ人々の心の支えとなってきた。その意味で、心のワクチンである。
 清水のような浸透感の清冽な言葉の数々。まさに善く生きるための指針、心のコンパスともいえる。
 哲人マルクスは私たちのように、喜び、悲しみ、苦しみ、前進しようともがく一人の人間である。だからこそ、そこには、人工的で模造的な意識的な美など、微塵もない。誰にも見せることを意図していなかったこともある。
 本書は、座右の書となった。一生連れ添う書物であるし、おそらくそうしたタイプの本であろう。
 いうまでもなく、現代世界は混沌とした側面もある。歴史上、もっとも平和な時代だとしてもだ。苦や善く生きることのテーマに対する渇望はマルクスが生きた時代から変わっていないどころか、むしろさらに重要なテーマとなっているだろう。
 古典とは汲み取ろうとすれば、尽きることのない精神的遺産であり、生きる活力の源泉だ。歴史的にみて、石油や組織体もいつかは尽きるだろうが、古典は尽きない。人類が存続している限り、そこには無尽蔵のエネルギーがある。有限であるからこその、リサイクルな知的資源。それが古典である。




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