【小説】 地下計画
新たなスーパーコンピュータが完成した。そのスーパーコンピュータは、従来のスーパーコンピュータとは比べ物にならない性能を誇るものだった。そして、そのスーパーコンピュータが、地球の未来について弾き出した答えは、どう計算しても100年で住めなくなるというものだった。原因は、戦争であったり、感染症の拡大であったり、環境汚染であったり、様々なものが考えられるが、それらを総合考慮した結果、100年で住めなくなるということだった。
そこで、科学者らは宇宙に移民する計画を立てた。地球に未来がないのなら、宇宙に移住するしかないと考えたからだ。しかし、スーパーコンピュータの計算では、全人類が完全に宇宙に移住するまで、今の技術では最低でも500年かかるということだった。
100年後の世界など、わざわざ気にする必要がないだろうという意見も生まれた。論理的に考えればその通りかもしれない、と科学者らは納得しかけた。しかし、「未来は白紙であり、自分たちでつくるものである」と、一人の科学者が言った。それもそうである。科学者らは自分たちで未来をつくってやろうと奮い立った。
そして、あるアイデアが生まれた。それは、地下に移住するというものである。スーパーコンピュータの計算では、地下になら80年もあれば完全に移住することができるという答えを出した。そこで、科学者らは地下に移住し、その後、宇宙に移住するという計画を立てた。
地下移住計画を始動する前に、計画に立案した記念すべき最初の科学者らで写真を撮った。80年という長い年月をかけて進められる計画は、当然世代間で受け継がれていくことになる。生きている間に計画が達成できるとは限らないため、人生をかけて計画を進めるという決意も込めて写真を撮ったのであった。
地下移住計画は着実に進められていった。地下には、居住スペースやインフラ施設が次々に整備されていった。科学技術の発展は、地下移住計画において、最も課題であるとされた食糧難という問題を解決した。この地下移住計画を通して、その他あらゆる科学技術が驚異的に発展していった。世代を越え、計画が始動して70年も経つころには、地下移住の目標はほぼ達成しかけていた。
そうして科学技術が発展していく過程で、新たにスーパーコンピュータが完成した。そこで、科学者らは地下計画はあとどれくらいで完成するかをスーパーコンピュータに計算させた。スーパーコンピュータが弾き出した答えは2ヶ月というものだった。科学者らは、ひとまず地下計画が無事完成するのだと安堵した。
次に、試しに宇宙移住計画について聞いてみた。なんと、50年もあれば完全に宇宙に移住できるということだった。科学者らは歓喜した。彼らの頑張りと技術の発展が実を結んだのである。彼らは、未来はつくれるのだ、と再び奮い立たせた。
そこで、今度はある科学者が「地球はあと何年で持たなくなるのか」とスーパーコンピュータに聞いた。スーパーコンピュータが答えを弾き出した。2万年だそうだ。
科学者らは複雑な気持ちになり、素直に喜べなかった。地下移住計画は完成させるべきなのか、宇宙移住計画に着手するべきなのか、彼らは何が何だかわからなくなっていた。
すると、一人の科学者が「いいではないか、君たちのおかげで未来が変わったのだ。未来をつくったんだよ」と言った。確かにその通りである。未来をつくりあげるという目標は達成したのだ。彼らは再び喜び合った。
科学者らが我を忘れて歓喜しているころ、あの科学者はどこか見覚えがあるな、と科学者の一人が不思議に思った。彼が何の気なしに、地下移住計画始動時の写真を見てみると、あの科学者の姿があった。しかし、70年も前の話である。他人の空似だろうか。
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