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助かるには誰も見たことがない女を探し出すこと 「幻の女」 読書感想

あらすじ

妻と喧嘩したスコットは街でたまたま出会った女性と
食事し劇場でショーを鑑賞する。
帰宅した彼を待っていたのは警察と絞殺された妻の死体だった。
死刑宣告を受けた彼のアリバイを証明できるのは昨夜の女性のみ。
しかし彼女は誰の記憶にも存在しない女性だった。

感想

とてもハラハラドキドキして楽しめた。
各章の題が死刑執行からのカウントダウンになっていて、
執行までに無罪を証明できるのかとハラハラした。
主人公のアリバイを証明するため、
警察と昨夜の女性を聞き込みにいくが、
誰一人彼女の存在を知らなかった場面の薄気味悪さは素晴らしかった。
推理小説のように、読者に推理を求めるタイプではないが、
最後のどんでん返し。からのどんでん返し。
そんな作品だと思っていなかったので、全く予想しておらず衝撃を受けた。

駄文と愚考 (ネタバレ注意)

本作のミステリ的な面白さ、どんでん返しのギミックなどは
読めばわかることであるのと、
面白さの説明がヘタクソなので割愛させていただく。

本作前半で誰も”幻の女”を記憶していなかった場面で
主人公が自分はおかしくなってしまったのか、
と疑心暗鬼になる場面がある。
そこでネットかなにかで見た、ある同調圧力の実験を思い出した。

8人が実験の参加者として集められる。
彼らは2枚のカードを見せられる。仮にA,Bとする。
Aのカードには1本の棒が書かれており、
Bのカードには長さの違う3本の棒が描かれている。
カードAの棒と同じ長さの棒を
カードBの棒の中から選ぶという実験。
棒の長さは簡単に見分けがつくほどはっきりしたもの。
この実験の対象者は1人だけで、
後の7人は実験内容を知っているいわゆる”サクラ”である。
一人づつ順番に回答してもらうが、対象者の回答は七番目とする。

何回か回答してもらう中で”サクラ”の方たちに
わざと誤った回答をしてもらう。
そうすると対象者もその答えが間違っていると分かっているにもかかわらず、
他の人と同じ回答を言ってしまう。
周りが全員同じ答えなのだから
自分が間違っているのだろう
と対象者は思ってしまうとのことだ。

これは人の認識を歪めてしまう方法でもあると思った。
例えば自分は鳩だと思っていても、
自分以外全ての人がカラスだと言うのであれば間違っているのは自分だ。
そう思わされた人はそれ以降、鳩はカラスと認識してしまうのではないか。

「幻の女」の前半、スコットにも同じ現象が起きていたように思う。
自分には彼女の記憶があるのに他の人の記憶には無い。
確実に彼女を見たはずの人までもが。
世界(周囲の人間)が合っていて、自分が間違っているのではないか。
昨夜自分は女性を誘っていないのに、
自分のアリバイのために架空の女性を
作りあげてしまったのではと主人公は思ってしまう。
自分が同じ体験をした時、自分自信を信じ続けることは可能だろうか。

私には不可能だろう。
結局私の現実なんて他人との共通認識でできている。
自分自身のことでさえ、自分には何も分かっておらず、
他人の認識に合わせて演じているにすぎない。
主人公スコットと同じ目にあったら、早々に降参する自信がある。

ただそう考えると、
過去の偉人達は自分を信じ続けられた人たちなのだろう。
ガリレオ、コペルニクス。ダヴィンチもか。
やはり偉人はすごい。

そんなことをだらだらと考えた。

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