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[書評] 姉の結婚

みなさん、こんにちは。Naseka です。
哲学者・エッセイストとして、
自らを定義しています。

前回 に続いて書評 第2回

今回は 西炯子 先生のマンガ
「姉の結婚」についての書評です。

「これから書評を書いていこう」
という決意にあたり、
この作品に触れないわけにはいかない。

私にとって、それくらい大きな作品です。


あらすじ

アラフォーになり地元に戻った岩谷ヨリは、結婚や恋愛から距離を置き、図書館司書の仕事をしながら一人静かに暮らしていくことを決める。だが、そんなヨリの元に中学生時代の同級生・真木誠が現れる。真木には妻がいたが、まるでストーカーの様にヨリにつきまとい、アプローチを重ねる。肥満体型で根暗だった昔とは別人のように容姿端麗となり、優秀な精神科医として社会的地位もある真木からの求愛を拒むヨリだが、次第に心を動かされていく。

姉の結婚 - Wikipedia より

私の本作品の出会い

私が本作品と出会ったのは約10年前、
まだ独身で 現在の妻とも出会っていない頃…

たしか そもそものきっかけは、
西先生の「娚の一生」を読んで
とても惹かれたからだった。

特別「これは!!」という
衝撃的な感情こそ湧かなかったものの、
「なんて素敵な作品なんだろう…」と穏やかで
幸せな読後感を得られたことは覚えている。
(「娚の一生」を手に取った理由やきっかけは、
 全く覚えていないのだが)

そんな読後感がまだ残っていた頃、
書店でこの作品を見かけて手に取った。

そう、今でこそ ミニマリズムの一環で
単行本を手放したものの、
私は当時 まだ紙の本での読書が中心だった。
(その後、全巻 kindle で買い直した)
定期的にジュンク堂やアニメイトに赴き、
大量の本を抱えて帰るのが何より幸せだった。

…話を本作品に戻そう。

この作品の主人公 ヨリ に対して、
私は共感と、片思いにも似た感情を抱いた。

特に彼女に共感を覚えたのは
・読書好きで知的な雰囲気
(後者は共感というより憧れ)
・独身生活が長いこと
(当時 私も友人の結婚が増えていた)
・結婚観
(「交際=結婚」と考えてしまいがちなところ)
・「本能の赴くまま」よりも「考えて動く」ところ
・割とさっぱりした性格なところ
・でも、しばしば悩んで煮え切らないところ
…etc.

正直 面倒くさい面もあるが
(実際にお付き合いしたら そんな気がする)、
こんな女性と出会えたら素敵だろうな
…と、憧れていたのを覚えている。
(結果的に妻となったのは、
 ヨリとはまた違ったタイプの女性だったのだが)

そんな主人公だから、
悶々と考え込んだり
うじうじ悩んだりする人が嫌いな方には
本作品は合わないかもしれない。
(魅力は後述するので一読の価値はあるが、
 なによりイライラするかもしれない)

本作品はヨリが図書館職員、
誠が大学の講師で本の著者でもある、
ということから、結婚や恋愛だけでなく
「本を読むこと」
「考えるということ」

が根底にあるエピソードが所々に表れる。

そんな作品の中で、
私が特に印象に残った言葉やエピソードを
紹介していきたい。

特に印象深い 好きな言葉

①読書と人生

「本を読む者は読まないものの
 数倍の人生を生きている
 君は迷う人を照らす灯台となれ」

姉の結婚 - 第2巻
piece.10 トラウマ渦巻島
より

これはヨリが中学生時代に、
恩師から受けた言葉として登場します。

私も小説こそ ほとんど読みませんが、
それでも過去の人たちが紡いできた
歴史を綴った本を読むのが大好きです。

もちろん実際に生きる人生に比べれば、
本から追体験できる人生は
ごく一部に過ぎないでしょう。

しかしながら、一冊の本からその「ごく一部」でも
他人の人生の体験をなぞることができるなら、
『本を読む者』は何冊もの本から、
様々な人生の体験を得ることができる

と思うのです。

そしてそれは 時 を重ね、
読書 を重ねれば重ねるほど、
重厚で何にも代えがたい経験になる。

この言葉から、
私は読書をそのように考えるようになりました。
私の読書観に影響を与えてくれた、
とても印象深い言葉です。

②”過去”と”今”と”未来”のつながり

「”過去”をきちんと見ることが・・・
 ”今”と”未来”によりよくつながるんじゃないかっ
ていう・・・
(中略)
・・・ともすると人は ”今”に不満を持ちがちで
そこからしか”未来”を推しはかれなくなってしまう
気がする

なぜ”今”がこんな形をしているのかを知れば
未来の形は”今”から変えていくことができる
それに気づくと人の”未来”って
今 自分が思っているより
ほんの少し好ましいものに
なっているんじゃないかな」

姉の結婚 - 第7巻
piece.38 思い出のアルバム
より

土佐島へ行った先で、
ヨリが誠との会話の中で発したセリフ。

これも先の言葉とあわせて、
非常に造詣が深いと思います。
(西先生は どんな人生経験を重ねて、
 このような言葉を紡ぎ出すことが
 できたのでしょうか…)

私たちの生きている世界は、
その瞬間(=今)の繰り返しであり、
”今” は次の瞬間には ”過去” となるので、
言い換えれば
「世界は ”過去” の積み重ね」である
と私は思います。

そして、それはそれぞれ理由があって
次の ”未来” につながっていくことから、
彼女の言葉のとおり

”過去” をきちんと見て、
なぜ ”今” がこんな形なのかを知ることで、
”未来” をより好ましいものに変えていける

 

そんな風に時の流れを感じていけたら、
どんなに素敵なことかと思います。

影響を受けたエピソード

”なりたい自分になろう”キャンペーン

当初は どちらかというと
自分を抑圧しがちだったヨリが、
誠からの強引な求愛のせいで(?)生じてしまった
身なりや雰囲気の変化に対してした言い訳。

このワードを口にしてから少々場面は変わるが、
地元から東京に出てきた際に彼女は
キャンペーンを有言実行する。

服装も髪型もメイクも
普段の地味な印象から離れて、
思いっきりオシャレを楽しんじゃおう!
だって周りは
普段の自分を知らない人だらけなのだから!
(実際にはそこで知り合いに遭遇するのだが…)

私自身はメイクもファッションも
さほど興味はなかったのですが、
この「なりたい自分になろう」というフレーズ
そして「キャンペーン」というユーモアが、
私には なぜか ぶっ刺さりました。

彼女も、普段の服装・メイク・生活が
まったく不本意だったわけではないと思います。
「いやいや」「渋々」ではなく、
自分で好んで地味な格好をしているフシがあるし、
ひとり暮らしで読書に耽ることは
望んですらいたことだと思われる。

ある意味でこのキャンペーンは、
ここまで書いてきたヨリの
「家に籠って本を読む」
「あれこれ考える(悩む)」
といったエピソードとは正反対のベクトルです。

ですが、彼女の趣味や考え方に
どこか共感を覚える自分だからこそ、
「あ、これいい!」
「私もやってみよう!」
とインスピレーションを得られたのだと思います。

普段「私はこれでいいのだ」と思って
足踏みしていた自分を意識的に変えようとする
このエピソードは、私にとっては 後々
「毎週 新しいことをやってみるチャレンジ」へと
つながることになりました。

そういえば
ちょうど本作品を読み始めたのと同じ頃に、
映画作品でも運命の出会いがありました。
そういう意味では、この時期が私の人生にとって、
非常に大きな転換点だったのかもしれません。
(しみじみ)

今週私はこれ読んだ(書評)

話の中で、ヨリは書評を書くことになり、
それが評価されて彼女の人生が動いていきます。

私は note をはじめるまで
SNS の類や「世に発信する」という行為を
ほぼやってこなかったのですが、
文章を書くこと自体は嫌いではありませんでした。

今はやめてしまいましたが、
日記をつけていた頃はよく筆が進んだものですし、
仕事柄 報告書や起案書といった文章を書くのも
全く苦になりません。
(「嫌いではない」が「好き」「楽しい」に
 変わったのは、note をはじめてからでしたが)

そんなわけで、読んでいた当時から漠然と
「私も書評を書いて世に出してみたい」
と思うようになりました。
(そもそも「感想(文)」ではなく
 「書評」という表現自体、本作品の影響が強い)
本当に漠然とし過ぎて、note をはじめるまで
実現はしていなかったのですが…

実は本作品の中で ヨリが連載している
書評コーナーの題名が
「今週私はこれ読んだ」
なのです。

私の note の書評マガジンのタイトルは、
ここからいただきました。
私もぜひ、彼女にならって
たくさんの書評を書いてみたいと思っています。

いずれ彼女のように、
書評を書くことが仕事になれば とても幸せですね。
(お仕事の依頼、お待ちしております)

私が好きではないところ

読む度になにかしらのインスピレーションを
得られるような感覚があり、
作品全体としてはとても大好きです。それが証拠に、
完結した後も何度も読み返しています。
(少なくとも片手で足りないくらいは)

ただひとつ、私が好きではないところがあります。
それは、全8巻のうち最終巻の展開…

詳細はネタバレになってしまうので割愛しますが、
第7巻でヨリと誠の想いが成就します。
…が、ここから第8巻に入って、
大どんでん返しがあるんです。

最終的な着地は まぁ私も受け入れられるんですが、
その前のドタバタ劇が苦しくて見ていられない。
たぶんこれは、私がヨリに
感情移入し過ぎているからだと思うのですが…
そんなわけで、あるときから私は
「読み返すのは7巻まで」になってしまいました。
作者の西先生には申し訳ないですが

ただ、それは裏を返せば
それだけ感情移入できる作品であり、
それだけ感情を揺さぶられるような作品で
あることの証だと思います。

ですから、これはあくまで
「私が好きではない」だけであって、
決して作品の魅力そのものの問題ではない
と思います。

…余談ですが、最近の若い人たちの中には
「どんでん返しで心を揺さぶられるのが嫌だから、
 ネタバレは歓迎」

といった意見があるとかないとか、
そんな噂を耳にしたことがあります。

噂自体の真偽は別にして、私自身は
基本的にはネタバレしない方が楽しめます。
…が、こと本作品に関してだけは
「心が揺さぶられるのが嫌」という声に
激しく同意です。
(一度読んだからネタバレはしているのだが、
 それでも心が揺さぶられる。
 それもあまり心地よくは思えない…)

まとめ

実は「”過去”をきちんと見ることが…」の後、
彼女は誠に こう言って締めくくります。

「一冊の本がある人の人生を変えてしまうことがあるように
 この島を知ったことで”未来は変えうる”と誰かに思ってほしい」

 

このセリフ、「島」を「作品」に変えると
作者の伝えたいメッセージになるのではないか
と(勝手ながら)思います。

全編を通しての主題はあくまで
「結婚」なのかもしれませんが、
私にとっては主人公の言動・心中から、
「読書」と「思索」の素晴らしさを感じられる
作品です。

単に恋とか愛とかいった情動ではなく、
年を重ねたからこそ考える(考えてしまう)こと、
人生経験を積み重ねたからこそ苦しむこと、
そういったものに悩み苦しむのもまた、
人生なのではないでしょうか。

こんな人にオススメ!

・西炯子ファン(勧めるまでもないだろうが)
・読書や思索が好きな人
・あれこれ悩みがちな人
・惚れた腫れたではない、
 大人の恋愛マンガを読みたい人

こんな人には合わないかも…

・そもそも恋愛ものが好きではない人
・あれこれ考えるのは嫌い、
 本能に従って生きるのが好きな人
・うじうじ悩む人が嫌いな人

お読みいただき、ありがとうございました。

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