【短編】あの雨の日の朝の、彼の顔を思い出す。
昨日は、数ヶ月ぶりの出社。
隣の島から、
元カレが
6月末で退職するという話が聞こえてきた。
4年前の4月、
中途でわたしと同期入社だった。
15歳年下の彼。
入社して3ヶ月後に付き合いはじめたが、
3ヶ月で別れた。
その後、彼は
社内のシングルマザーと付き合った。
家族愛に餓えていた彼は、
彼女の子供をとてもかわいがり、
父親になりたいと言っていたことも。
でも、ノリが良すぎる彼は、
新人部下の女性から、
ハラスメント行為でリスコンマターとなり、
部下は突然会社に来なくなり退職した。
彼はそれなりに実績を上げてはいたが、
事あるごとにこの事が足かせになって、
昇進に大きな影響を与えていた。
それを機にシングルマザーとも別れた。
わたしとは同僚ということで
仕事は一緒にしていた。
よく衝突したけれど、
なんとなくお互いに気の合うやつだという
共通認識はあったんだろう。
たまには飲みにいったり、
仕事の話をしたりと、
仲良くはやっていた。
とある日。
その日はなんとなくいい具合でお酒もすすみ、うちに来いよ、と彼のマンションへ。
朝方早めに目覚めた私は、
床に無造作に置いてあった、
料金滞納の督促状2通を見つけた。
債権回収会社からのものだった。
その日も仕事だったので、
わたしは静かに身なりを整え、
ほどなくして彼が起きてきた。
早めに出勤するわ。
起きたての彼は煙草を吸いながら、
わたしを見ていた。
それとさ、あれ。督促状。
ああ・・・、と。彼。
あのさ、
もっと自分の人生、
丁寧に生きないとだめだと思う。
それだけ。
もう2度とここには来ないから。
外は今日と同じくらい雨が降っていた。
傘もっていくか?
いや、タクシーで行くから。
じゃ、ね。今日で最後、さよなら。
うん、ありがとう。。
最後までさよならと言わない彼。
悲しそうなんだけど、
こんな別れを何度も経験しているのか
慣れも感じた。
今日は朝方からずっと雨が降っている。
あの日の雨。
ありがとうと言った彼の顔を思い出した。
なんとも言えない朝。
彼もあの部署で色々傷ついたんだうな。
わたしみたいに。
今日1日、早く終わればいいのに。。
それだけ。。
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