高橋ヒデキ

1965年北海道旭川市生まれ江別市育ち。

高橋ヒデキ

1965年北海道旭川市生まれ江別市育ち。

最近の記事

ピント

 AF(オートフォーカス)が全く性に合わない。あ!今だと思ってシャッターを切ってもなんだか微妙にタイミングがズレているような気がしてならない。しかも最新の瞳認証AFは顔のところにグリーンの四角いのが常時チラチラしてモデルの表情がよくわからない。なので最新ミラーレスカメラにマウントアダプターを使用してMF(マニュアルフォーカス)レンズをつけて撮影しているのだが、やはりこちらのほうがしっくりくる。 長年、人物を撮影していて気がついたことがある。それはピントを合わせやすい人、合わ

    • 『ネガ』

       自分の知らない間に『ネガ』という言葉が否定的な意味で使われていることにふと気づいた。ニュースの見出しの横に『ポジティブ』『ネガティブ』というアイコンがついていたのを見たからだ。そんな大雑把に2つに分けることができるのか。世の中からどんどんグラデーションが失われている気がしてならない。 僕は撮影前日決まってお腹が痛くなる。心配しすぎてしまうからだ。撮影中カメラが壊れたらどうしよう!上手くいかないことばかり頭の中に浮かんでしまうのだ。予備のカメラを用意しておこう。さらに予備の

      • 『時間』

         アシスタント時代からお世話になっているモデルクラブの女性社長から電話が来た。「高橋さん、言いにくいんだけど、、、うちのモデル達から高橋さんにクレームが来ているの』 『高橋さんの撮影はとにかく時間がかかってライティングの変更も多いし何度もポラ切ってフィルムの量も他のカメラマンさんの何倍も多いらしいじゃないですか。モデル達はそれで自信を無くしたり疲弊したり大変なんです!』 人は楽しいことをしてる時には時間が一瞬で過ぎてしまうそうなのだがその逆だと相当な苦痛になる。 『高橋

        • 『個性』

           『個性的な写真を撮るにはどうしたら良いんでしょう?』 唐突に後輩のカメラマンから質問された。個性的な写真? そんな事を考えてシャッター押したことが無い。 自分は物心がついた頃から『変わってる』『個性的だね』と悪いニュアンスを含む言葉を投げかけられていたので『普通』に憧れていたし『普通』になろうと思っていた。たしか小学3年生くらいの頃の出来事だ。スイカ割をしていて、右、右!と言われているのにどんどん左に進んでしまい先生から『あなた!小3にもなるのに右と左もわからないの?

          『色気』

           『なにかこう、もっと色気のある写真撮れませんか?』 編集者からそう言われて口を閉じたまま小さなため息をついた。不思議と怒りはなく客観的にみても僕の写真に色気が無いことは確かだ。色気のある写真って何?逆に聞きたいところだ。 編集長が交代して方針が変わったのだそう。女性の色気を前面に出していく誌面作りをするのだと聞かされた。それまでは男性目線で撮影することさえ憚られていたのに急に180度方向転換されたものだからたまったものではない。ひたすら困惑してしまった。 その雑誌は売

          『南へ』

           一年続けてある程度お金が貯まったら海外に写真を撮りに行こうと思って始めたアシスタントの仕事も気がつけば4年近く経っていた。後輩も育ってくれて、しかも僕なんかより仕事もできてスタッフから頼りにされていた。これで安心して海外に行ける!で、どこへ行こう。 ふと学生時代にシネヴィバン六本木で観たビクトル・エリセ監督の『エル・スール』のロケ地に行ってみたくなった。聖地巡礼というやつだ。独立のお祝い金とハッセルを売ったお金でスペイン行きの一番安い航空券を買った。アエロフロート機は何度

          『三次元と二次元』

           ある著名なファッションデザイナーさんと一緒に撮影をしていてふと思った。撮影するということは三次元の存在を二次元に置き換える作業で洋服をデザインして作るというのは平面な二次元の生地から三次元の立体物を作るということなんだよねーと。撮影とは被写体があり光があって初めて成り立つ行為だがファッションデザイナーさん達はまっさらな白い紙の上に一から絵を書き、そして三次元のものを生み出してしまう。羨ましいなと思った。僕は子供の頃から絵が全く描けなかった。他の子達はスラスラと下絵を描き色

          『三次元と二次元』

          『オーラ』

           小雨の降る肌寒い夕方の事だった。打ち合わせに遅れそうだったので傘をさして小走りで約束の場所へ向かっていた。やや離れた前方からから大きな銀色に光る球体が近づいてくる。『あーテレビの撮影、暗いからライト点けてるのか』そう思った。邪魔にならないよう脇にすっと避けてすれ違ったら屈強なボディガード2名と数名のスタッフに囲まれた華奢な女性が真ん中にいた。不思議な事に誰もカメラらしき機材を持っていなかったしライトも点いていなかった。だとしたらさっき見えていた大きな光の球体は一体。。。。

          『鏡』

           とある雑誌社のスタジオで撮影していたときの事、編集者から『高橋さんの撮る写真が大好きな社員がいるのでご挨拶よろしいでしょうか?』と言われた。もちろん悪い気はしない。どうぞと招き入れた。一通り挨拶が終わり彼女が言った。『私、高橋さんの撮る写真の印象から勝手に背が高くて黒ずくめのファッションで神経質そうな暗い無口な人だと思っていましたけれど完全に真逆ですね!』 写真は『鏡に写った自分を見るように』撮る人の個性が写ると言われている。僕の撮る写真はどこか暗くて物悲しい雰囲気がある

          『anti leica』

          先日起きた能登半島沖地震の被災地を『Leicaで撮影』した方のSNSが炎上したという。もし仮にカメラが同じくドイツ製の『ロボットローヤル24』だったら、、、、炎上することもなかっただろう。しらんけど。 このロボットというカメラ実はなかなか面白いカメラだ。巻き上げレバーの代わりにゼンマイ式モーターを内蔵し5〜6コマ/秒で連写できる。24mm×24mmのスクエアフォーマットなので36枚撮りフィルムで54枚撮影できる。シュナイダー製のレンズは素直で優しい写りだ。銀座付近でこのカメ

          『anti leica』

          『滅私』

          自分の肩書きを述べるときにいつも迷ってしまう。写真家ではないしフォトグラファーって言うのも気がひける。カメラマンってそもそもは動画カメラのオペレーターを指す用語だし『写真屋さん』これが一番しっくりくる。長いこと商業写真の撮影を生業にしてきた。こんな写真を撮ってください!とオーダーが入りその要望に応えて映像化する仕事。そこに自分の意思や表現などは極力加えず編集者やアートディレクターの言う通りに坦々と撮る。滅私の心で。 そんなふうに話していたら同業者から一斉に非難の声があがった

          『写真家失格』

          荒木経惟さんの写真集を見るたびに泣いてしまう。『せつなさ』がこれでもかというくらいたっぷりと散りばめられているからだ。まるで呼吸をするがごとく、いろいろな事象を撮影し記録するというのが写真家の定義だとしたら、、、、自分は間違いなく『写真家失格』である。大事な瞬間や愛おしい時間。それらを記録してシェアするなんて自分には信じられない。大好きで愛おしかった猫が亡くなる直前の姿にカメラをむけることはできなかった。ひょっとしたらそれは『自分だけの記憶』にしたいエゴがあったからだと思う。

          『写真家失格』