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『鏡』

 とある雑誌社のスタジオで撮影していたときの事、編集者から『高橋さんの撮る写真が大好きな社員がいるのでご挨拶よろしいでしょうか?』と言われた。もちろん悪い気はしない。どうぞと招き入れた。一通り挨拶が終わり彼女が言った。『私、高橋さんの撮る写真の印象から勝手に背が高くて黒ずくめのファッションで神経質そうな暗い無口な人だと思っていましたけれど完全に真逆ですね!』

写真は『鏡に写った自分を見るように』撮る人の個性が写ると言われている。僕の撮る写真はどこか暗くて物悲しい雰囲気がある。しかもソリッドで静的だ。

自分の個性や考えていることが撮影した写真に反映されているのだとしたらこんなに恥ずかしいことはない。できるだけ見られたくない。小説を書いておきながら公開するなと遺言したフランツ・カフカの気持ちがよくわかる。

 最近のカメラはミラーレス化が進んでいる。ミラーどころか(機械式)シャッターすらレスな機種もある。一時はレンジファインダーカメラを駆逐し世の中を席巻した一眼レフカメラだが今まさに終焉を迎えようとしているのは複雑な気持ちだ。キヤノンのEFレンズ群はほぼディスコンになったと聞いた。大きくて重いプリズムガラスを必要とせず機械式シャッターとミラーの作動による物理的な振動も無くフランジバックを短くできることにより本体を小型化できる。一眼レフ好きの自分としてはなんとかあら捜ししてやろうと思っていたのだがミラーレス化することのデメリットは今やほとんどない。

一眼レフカメラはシャッターを切ったまさにその瞬間を見ることはできない。なので予めその瞬間を予測して少し前にシャッターを切り始める必要があった。だから自分の思う瞬間が写っていたときには喜びと大いなる満足感が得られたのだった。最新ミラーレス機には『プリキャプチャー』という機能が搭載されている。シャッターを押す数秒前を記録できるというものだ。この機能により誰でもが決定的瞬間を逃さず撮影できるようになったのだとか。趣味で野鳥を撮影している友人が発売されたばかりのカメラで撮影した後『いやー今まで苦労してやっと撮れてた絵がさらっと撮れちゃうんだよねー。凄いのは凄いんだけど。。。なんかつまんなくなっちゃうよ撮影が』

 ひょっとするとカメラから『鏡』が無くなると撮影者の個性も反映されにくくなるのか?古くから鏡は『神聖で魔力を持つ』ものと信じられてきた長い歴史がある。防湿庫に入ってる古い一眼レフを掃除しよう。そんな気持ちになった。


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