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『オーラ』

 小雨の降る肌寒い夕方の事だった。打ち合わせに遅れそうだったので傘をさして小走りで約束の場所へ向かっていた。やや離れた前方からから大きな銀色に光る球体が近づいてくる。『あーテレビの撮影、暗いからライト点けてるのか』そう思った。邪魔にならないよう脇にすっと避けてすれ違ったら屈強なボディガード2名と数名のスタッフに囲まれた華奢な女性が真ん中にいた。不思議な事に誰もカメラらしき機材を持っていなかったしライトも点いていなかった。だとしたらさっき見えていた大きな光の球体は一体。。。。
見間違い?『強いオーラを放っている』と言葉では聞いた事があるがまさかそれを具体的に映像で見ることになるとは。

後になって思い出した。真ん中にいた華奢な女性はシンガーで女優のNMさんだった。

 仕事柄『オーラ』を放っている方々を撮影する機会が多いのだがそれと同時に人を引き付ける『引力』のようなものを持っている方も男女問わず多い。『オーラ』というより『アリュール』というべきか。まだ駆け出しの新人女優さんを撮影した時の事だ。あまりにも絵になるのでいろいろとパターンを変えて撮影し続けていたら編集者から『インタビューの時間無くなるからこの辺で』とやんわり怒られてしまった。女優さんの中にはシャッターの回数が多すぎると不機嫌になる方もいる。それはごもっともなことでこちらの力量不足を恥じるのだがその新人女優さんは嫌がるどころかこちらに向かって挑んでくるようだった。『高橋さんがしつこく撮るから写真選べなくて2ページの企画だったのに4ページになっちゃいましたよー』編集者が笑いながら電話をくれた。同業者にその時の話をしたら『あーあの子!撮影してて視線外せなくなるんだよね。魔性のっていう言葉がぴったりな感じ』

その新人女優さんはその後ドラマやCMにたくさん起用されて大人気になった。制作スタッフからの評判も良い、まさに愛されキャラ。そんな方々に共通するある特徴。どこか『天然で可愛らしい』のだ。『アリュール』は努力では決して手に入れることができない神様からのギフトだと思う。

その一方で『オーラ』は、、、なにかこう努力次第でなんとかなるような気がしてならないのだ。ほどほどの光具合だと良いのだが本当の自分を超えてしまう『オーラ』をまとってしまうとそちら側が勝手に独り歩きしてしまうのだとか。

『強い光を放つものの足元には暗い影を落とす』

ゲーテの名言だ。

カメラマンの仕事ってその影の部分を綺麗にみせる仕事だよね。と自分に言い聞かせた。

 


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