『anti leica』
先日起きた能登半島沖地震の被災地を『Leicaで撮影』した方のSNSが炎上したという。もし仮にカメラが同じくドイツ製の『ロボットローヤル24』だったら、、、、炎上することもなかっただろう。しらんけど。
このロボットというカメラ実はなかなか面白いカメラだ。巻き上げレバーの代わりにゼンマイ式モーターを内蔵し5〜6コマ/秒で連写できる。24mm×24mmのスクエアフォーマットなので36枚撮りフィルムで54枚撮影できる。シュナイダー製のレンズは素直で優しい写りだ。銀座付近でこのカメラを首から下げていると高確率で『そのカメラなんていうメーカーのカメラですか?』と声をかけられる。『ロボットっていうカメラなんですよ』『ライカじゃないんですね!ライカかと思いました』。よくわからない優越感に浸る。
僕は高校進学を機に写真部に入った。あまり熱心な部員ではなかったけれどコンテストに応募するとよく入選した。ひょっとして自分には才能があるかもと盛大な勘違いをした。こじらせた高校生男子にはよくありがちな事だ。将来東京に出てカメラマンになってアイドルを片っ端から撮るんだ!と息巻いていた時、一学年下にK君という天才学生写真家が現れた。同じ学校ではなかったけれど北海道内の学生写真コンテストを総なめしてしまう有名人になった。僕は心から彼を嫌った。嫉妬、羨望そして絶望。自分の才能の無さを思い知らされた。随分とあとになってわかったことだが彼はライカでよく撮影していた。彼がライカ使いだと知ってライカが嫌いになった。理由は同じカメラを使いたくなかったからだ。これが『器の小さいやつ』の見本である。
ライカといえばレンジファインダーのM型と言っても過言ではないだろう。僕はこのレンジファインダーが大嫌いなのだ。真ん中でしかピント合わせできない。背景のボケ方が確認できない。広角レンズを付けようものなら別にファインダーを用意しなくてはならなくなし最短撮影距離が75cmというのも気に入らなかった。(⚠ライカが一眼レフを出しているのをその時は知らなかった)それになんだか写真家の偉いセンセ御用達みたいな印象もいけ好かなかった。とにかくアンチライカだったのだ。そう、『だった』のだ。
時は流れて、、、、デジタルカメラが仕事でも普通に使われるようになっていたある日、写真が趣味の友人A君が1本のレンズを持って遊びに来てくれた。『ライカRズミルックス50mmF1.4/3カム』だ。『このレンズさアダプターがあればEOSにも付くらしいよ。アダプター用意してデジカメでもテストしてみてよ』彼が撮影して見せてくれたフィルムの写真はいまだかつてみたことのないような濃密な色とコントラスト、そして情報量の多さだった。 ライカが嫌いと言ってもこのレンズに罪は無い。早速アダプターを購入してEOS 1Dsmk3につけて撮影してみた。
慎重にピントを合わせてシャッターを切るとMacに転送された画像がモニターに映し出された。なんという生々しさ!モデルがもう一人そこにいるような奇妙な感覚。金属のアクセサリーは冷たく、肌は湿気をおびて柔らかく温かく見えた。ピントの合っているところはシャープだがそれ以外のところは形を残しつつ優しくボケていく。『わぁー素敵!』女性の編集者が声をあげた。結局、誌面にはわずか数枚しか撮っていないライカレンズで撮影された画像が選ばれた。
なんだか長年の戦いに負けた気がした。
ある日、雑誌『コマーシャルフォト』の編集者から『高橋さん!ライカから新しく出るレンジファインダーカメラのテスト記事書いてもらえませんか?』と声をかけられた。ライカM9とキヤノン1Dsmk3の比較テストをしてみてライカがどれくらいの実力なのかこの際はっきりさせてみようということになった。同じフルサイズセンサーだが1800万画素CCD(M9)と2110万画素CMOS(1Dsmk3)スペック上ではキヤノン有利。レンズはM9には単焦点エルマリート28mm、1Dsmk3には14-35mmF2.8Lをつけた。ズームだけどキヤノン自慢の高性能Lレンズだ。吹き抜けの建物の上から1階のオープンカフェを撮った。その画像を見て驚いた。M9で撮影した画像にはテーブル席に置かれたコーヒーカップの中身が何であるか判別できたからだ。ものすごい解像力。。。。言葉を失った。
ライカジャパン主催のセミナーで最初に発する掴みのセリフがある。
『僕はアンチライカでしたが今ここにこうして立っています。それがなぜなのかこれから詳しくご説明します』
写真家のK君と恵比寿にあるクラフトビールの店で飲んだ。『あのさ、高校生の頃に知り合って今年で何年目?』『40年は超えてるしょ』『えー気持ち悪いなぁそんな昔からかよ』帰り際にK君がM10-Rで撮ってくれた。良く撮れていた。『おーっ!いいねぇ』と歓声をあげつつ、やっぱりライカもK君のことも嫌いだなと思った。
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