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掌編ファンタジー小説「異世界伝聞録」その15

生死(いのち)と、

運命(ほし)と、

契約(ちかい)の神の権能。

花(フィオラ)は、いつも心にある。

語り合った日々と、共に歩んだ足跡。

無数の名を持つ深淵の魔神王との戦闘を経て、

多くの仲間たちは散り散りにもなった。

あの次元流(ストリーム)が、他の異世界へと干渉したのだろう。
 
世界が別たれれば、もう仲間たちと会えないかもしれない。
 
幸いにも、フィオラとは同じ異世界へと飛ばされた。
 
暗闇の世界。焚き火と篝火だけが僕たちを照らす。
 
周りには深淵すらも見当たらない。
 
静寂に包まれたなか、フィオラは言った。
 
「なーんにも、なくなっちゃったね。」
 
フィオラはひとり呟いた。
 
「そうでもないさ。僕らと、思い出と、明かりがある。」
 
「ここで死んだらどうなるのかな…。」
 
「止せよ、縁起でもない。」
 
「じゃあさ。……私が居なくなったら、どうする? あ、元の世界でね。」
 
「たぶん落ち込むな…すごく。」
 
「えー、それだけ?」
 
「わからないよ。考えたくもない。」
 
「当てて見せようか?」
 
「……。」
 
「たぶん、時々泣くよ。つらいときもある。縋りたくも、なる。他の誰かを好きにもなって、恋をして。それでもそうあってほしい。」
 
「それじゃあ、フィオラはどうなのさ?僕が死んだら?」
 
「もう! ロマンスぐらい求めたっていいでしょう?!」
 
「あはは、怒った。この世界での思い出ができたね。」
 
「ぷぅー。」
 
「あっ、ブスになった。」
 
「なによー!」
 
「あはは、ごめんて。嘘だよ。かわいいって。」
 
「あー、嘘ついた! 初嘘つきだー!」
 
「……本当のことを言ったら、この世界で、その……。」
 
「あー、いやらしいこと考えてる。」
 
「……心が篭っていると言ってほしいなぁ。」
 
ーーーそれから、一晩が明けた。
 
「驚いた。太陽がある。山も海も、森も川も湖も。」
 
「きっと神さまが作ってくださったのね。」
 
「もう全部神さまなんじゃないか? 魔神王だって深淵の神さまだ。何故次元流を起こすのかは、わからなかったが。」
 
「意味があるとしたらさ。」
 
「うん?」
 
「私のつまらない怒りと、君のヘタな嘘とスケベな下心、みたいなものなんじゃないかな。」
 
「そういうと仰々しいなぁ。……でも僕は、君が好きだよ。」
 
「嘘だぁ。」
 
「僕の目の前には、フィオラしか映らないもの。」
 
疑っているね? 僕の愛は君が愛してくれる限り、続くもの。と心の中で思った。

フィオラは眼を伏せ項垂れると、急に口を開いた。
 
「あのね。私昨日、夢を見たの。」
 
「夢?」
 
「私たちが魔神王の軍勢になって、もとの世界の私たちと出会うの。でも、争うんじゃなくて……。きっと私たちはただ次元流を起こすだけ。新しいこの世界や、数々の異世界の素晴らしさを伝えて……。その異世界の伝聞録をみんなでつくるの。」
 
「へぇ。異世界伝聞録か。じゃあ僕らの世界にも人がたくさん必要だ。2人ではどうにもならない。」
 
「とりあえず、向こうの世界の仲間達を記録に残しましょう。伝説と教えもひとしきり。それで仲間たちが来たらご馳走でもてなすのよ。贈り物も交換して……。」
 
「それは素敵だなぁ。ゼルハルトの分は量がおおそうだ。」
 
「グゥエンシーはとびきり甘いのを用意しなくちゃ。それから……。」
 
僕たちの宴は三日三晩続いた。
 
その間、花(フィオラ)に向けた感情は、平原に色とりどりの花として咲き誇った。さまざまな存在が息づくのを感じる。
 
「この世界のすべてが夢だとしたら、醒めるのが惜しいなぁ……。」
 
「ねぇ……。」
 
「ん?」
 
「もし私が、あなたの前からいなくなっても……。たくさんの花(フィオラ)を、忘れないでね?」
 
「フィオラ?」
 
一瞬。

フィオラの笑顔が眩しくて、まばたきをした。

目が覚めると次元流が二人を包み込んでいた。
 
「……さようなら、シド。何度出会っても、私たちを忘れないで、ちゃんと抱きしめてね。」
 
「フィオラ……っ!」
 
これはどこか遠くの、命と星と、誓いの詩。
 
ーーー異世界伝聞録。


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