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掌編ファンタジー小説シリーズ「異世界伝聞録」その3

最初の感覚は、美しい。
……その一言に限る。

この国の第三都市、古都アマーリアスは清廉な民が集う神子・聖女たちが守護した地域だ。

なんでも4年間務める複数の聖女の継承制で都市の風紀を守っているらしい。

先生と別れて早くも4年。

僕は吟遊詩人として旅に次ぐ旅。

活気のある酒場と、元気のない街を風の便りに巡っていた。

この街に来るのも、4年とちょっとぶりだ。

となりの学問が盛んな大都市ファーレンの冒険者ギルドで申請した時から、僕の天職は始まったから。

現神官で当時聖女だったファラと出会ったのもこの時だ。

彼女は耳が聞こえない。

彼女は目が見えない。

彼女はあまり喋らない。

彼女は祈り、ただみんなに微笑む。

彼女はパン屋さんの焼きたてのパンの匂いが好きだ。

彼女は朝の花壇の水やりを欠かしたことがないらしい。

彼女は掃除に余念がない。

彼女は他人の悩みを黙って聞き、涙と共に優しく抱きしめてくれる。

彼女は紛れもなく聖女だ。

ただ、ファラの出自は戦災孤児。

精鋭の神官戦士の師匠に拾われたらしい。

だからファラは、僕より小柄で年相応に細身だが、単純戦力としては先生に言わせれば僕9人分らしい。

余談だが法術による回復も、祝福もできる。

いわゆる神官戦士(モンク)だ。

絶対的に敵わないが、彼女はそれでも祈るし、僕たちに微笑んでくれる。

4年前の大規模な三大ギルド連合による“深淵祓い“では、凶つ星の呪いに呼び寄せられた深淵に近づく魂を救済し、不死者の軍勢を彼女の師匠たちと共に足止めした功労者の一人だ。

先生が炎の精霊に祈るなら、彼女の師匠は精錬された宝具を握りしめて殴りつけ、生の感覚と死の体験を涙と共に不死者に一発ずつ叩き込んでは、味方にしていった。

懐かしいなぁ。

街に入ると、ファラが居た。子供たちの面倒を見ているようだ。

振り向いたファラは、昔より少し綺麗になっていた。

ーーー異世界伝聞録。
   吟遊詩人シドの日記より。


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