掌編ファンタジー小説「異世界伝聞録」その7
この世界では贈り物に花が添えられる。
愛すべき人を指して“花のように可憐だ。“とも、もちろん言われる。
花の在り方は先生に言わせれば、自然が生み出すエレメントの黄金比らしい。
僕はファラのために花を探したこともある。
先生に言わせれば、
「子供の頃に手にした花には方向性のない親愛の情が宿る。大人になるにつれ、それはいろいろな意味を持つ。草花と花木の違いはわかるかい?」
先生は花には精霊や天使、妖精が住まうのだと信じている。
妖精境のドルイドさんにも、お菓子の魔女のドルチェルさんにも、ファラにも、他の冒険者の人にも、先生は一定の親愛を持って接する。
「女性は花のように扱うんだよ。俺たちは時に蝶にも、蜜蜂にも、天道虫のようにもなる。」
「これらは自然界では“共生“と言う。」
「……異世界とのパスの一つに胡蝶の夢という話があるんだ。僕らは夢で蝶であったか、蝶が夢で僕らであったのか。それともすべてが、夢の在り方であったか。」
そう続けて言うと、先生は少し物悲しそうな感慨深い表情で僕に呟いた。
「長く生きていれば、時折り月下美人のような人たちに会うこともある。お前はファラが好きなのだろう?」
僕は真っ赤になって身体が熱くなるのを感じた。
「恥じる必要はないが、その熱さは忘れるなよ。これは魔法に満たない、おまじないのひとつさ。女難避けのな。……水浴びをする天女に、お前だったら何を贈る? 間違っても羽衣を盗もうとは思うなよ?」
僕は先生が何を言っているか、よくはわからなかったが少し考えてこう言った。
「僕だったら手持ちがないでしょうから詩でも贈りますね。」
「確かに。相手に花を持たせるとは……。俺はお前が末恐ろしいよ。」
先生はお前らしいよ。と言って笑った。
ーーー異世界伝聞録。
ある師弟の回顧録。
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