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35話 星の子

夢の壊し屋・ファミリーの火影は、墓守の兄弟・ドミノとドムに夢の壊し方について簡単に説明した。

「壊し屋は、位があってな、1番のトップが『リザード』って呼ばれる火炎滅(かえんめつ)だ」
「リザード?」
「こいつだよ」

火影は背中にくっついている第2の守護柱の「リズ」を指差した。

リズはトカゲの姿をしているが、その大きさは猫ほどあった。
爬虫類特有の固い鱗顔のリズは、長い尻尾を振って火影の肩越しにドミノとドムをジッと見ていた。
互いに見つめる時間がつづく。

「えっと、あの……こんにちは?」

ドムはリズに声をかけてみた。

「こいつは喋らんぞ。言葉を理解はするが、随分前に『煙』を吸っちまって声を捨てたそうだ」
「声って捨てれるの?」
「さぁな。あのお喋りオウムの話はどこまでが本当か分からん」

火影はロットとの会話を口にし、うちは無口でよかった、と付け加えた。

「その火炎滅とは、言わば炎で焼いてしまうって事ですか?」

ドミノは話を元に戻し、その先を知りたがった。

「そうだ。こいつの腹はマグマみたいに高温になる。扉を這いまわり夢主のプレートを焼き切っちまうんだ。後に残るは灰だけって訳だ」
「扉?」
「プレートですか?」
「墓守は知りたがりだな」

ドミノとドムは互いの顔を見て苦笑いした。

「夢の入り口の扉には夢主の、まぁ、何だ? 名札みたいなのがあんだよ。それを壊せば夢全体が壊れるって訳だ。ファミリーには、リザードを扱える者がトップ。その下にボム、ハンマー、キー、チェーンと続く」
「ボムって? ハンマー?」

ドムは聞きなれない言葉に首をかしげた。

「ようは、扉の壊し方だな。カケラ1つも残せない危険な夢は「完全消滅」の『リザード』が。扉を火薬で爆破するのが『ボム』。武器で壊すのが『ハンマー』。あぁ、今ちょうど帰ってきたぞ」

そう言って火影はフロアーの一角に戻ってきた5人ほどの部隊を指差した。
その武器は、とてつもなく巨大な金槌だった。
ドミノやドムには運べそうにない。
体の大きなファミリーでさえ、全体重で引きづって移動しているほどだった。

「おっきぃ」
「あぁ。力自慢の奴らばかりだ。怒らせると手が付けられんがな」

火影はハンマー部隊と目があい片手をあげて、ご苦労さん、と合図を送った。

「中には、夢主のプレートが無い空箱の夢もある。となると、次に探すのは夢の中の夢主の鍵。まぁ、夢を作ってる核みたいなもんだな。それを探すのが『キー』。で、夢底の栓を抜くのが『チェーン』って訳だ」

「夢底の栓ですか?」
「まぁ、風呂の栓みたいもんだ。入り口扉とは別に夢の奥の奥のさらに奥に栓があって、それにチェーンをかけてみんなで引っこ抜くんだ。この部隊はガッツがあれば誰でも入れるぞ? 墓守の兄、どうだ? チェーンに入らんか?」
「いえ……やめときます」

ドミノは即答した。
フロアを見渡し、傷だらけのファミリー達を見ては心苦しくなっていた。

「まぁ、危険な仕事だかんな。基本、扉を壊さないと夢の中の物は外に出せん。だから、夢が崩壊し始めて初めて「収穫」となるんだ。無茶して怪我する奴もいるほどだ」

「へぇ」

ドミノとドムの声がはもる。

お前らほんと、仲いいな、と火影は笑った。
火影は他にも色々話した。
壊し屋の仕事は、墓守とは違い単独行動は許されない。
それは、危険な仕事故に団結力を求められるからだった。

「火影様、少しよろしいですか?」
「おう、今いく」

火影は忙しそうにフロアーの中央へと行ってしまった。

火影の話をまとめると、夢主の居なくなった夢には「空夢」と「在夢」とがある。
空夢は、文字通り本当に空っぽ、誰もいない夢の事。
在夢は、夢主はいないが「夢主以外の生き物」が存在する。
「夢主以外の生き物」とは、人や動物、そして「星の子」がいるという。
それは、夢が崩壊する時その火花や風に影響を受け生まれた未知なる命だと教えてくれた。

火影は、すぐに戻ってきた。
手には小さな何か掴んでいる。

「墓守の兄弟、この後ジジアん所行くだろ?」
「はい」
「こいつをジジアの婆さん所に届けてくれねぇか? 俺はこの後、部隊を連れて出なくちゃならんでな」

火影が渡してきた『それ』は、ドミノの拳ほどの大きさだった。
丸い頭に先端が少しピンクがかった触覚4本。
短い手足が特徴の2足歩行の生き物だった。
不機嫌そうに俯くその顔は怒っている様にも見えた。

「兄さん、この子、何か機嫌悪そう……」

ドムの言葉にさらに表情を険しくする。

「ミィクですね」

ドミノは笑顔でそのミィクという種の生き物の頭を撫でた。

このミィクは、ドムが生まれて初めて出会った『星の子』だった。

つづく

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