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カラフルなお弁当への憧れ

1学期も残りわずか。学校のお弁当作りは、今日が最後だった。

「ごちそうさまー」と真ん中の子が差し出すお弁当箱を受けとる。開けてみると、バーバパパのメモ帳に手書きのメッセージ。


母へ

1学期の間、お弁当ありがとう。
美味しかったで。
2学期もよろしく。


おかずのバリエーションは多くない。インスタを賑わすようなキャラ弁からは程遠く、朝のルーティンと化しているお弁当作り。どこに何を詰めるかさえ決まっているような、代わり映えのしないお弁当なのに・・・

ねぎらいのメッセージに、心がじんわりとあったかくなった。


ワタシが母にお弁当を作ってもらっていたころ、母にこんな優しい言葉をかけたこと、あったかな・・・

ワタシの高校時代、お弁当を作ってくれていた母。ガテン系仕事をする父のために、母はそれまでも毎日お弁当を作っていた。高校でお弁当が必要と知った母は、「作る手間は1人でも2人でも同じだから、問題ナシ」とサラッとひとこと。

母にとって、お弁当作りのメインターゲットは父である。ガテン系の力仕事ゆえ、ガッツリとエネルギー補給ができるお弁当を、父はなによりも楽しみにしていた。

そんな父に渡すお弁当作りの優先事項は、当然のことながら、『量』と『腹持ちのいいガッツリおかず』。お弁当箱は、ガテン系定番の、アルミ製角型の大きいバージョン。


母にとってワタシのお弁当は、父のお弁当作りのオマケである。そのため、女子高生のお弁当で是非とも重視してもらいたい、『見た目の可愛さ』と『カラフルおかず』の優先順位は、限りなく低い。


☆ お弁当作りで優先すべきこと(母の脳内)

量>ガッツリおかず>>>>>>>カラフルおかず

(注)『見た目の可愛さ』は、この不等式に含まれる余地ナシの圏外。

高校時代のお弁当タイム。友達8人で机を寄せて一緒に食べていた。向かい合って食べるので、お互いのお弁当の様子が目に入る。このお弁当タイムが苦手だった。自分のお弁当をみんなに見られるのが恥ずかしかったからだ。

友達のお弁当が、心底うらやましかった。友達の小さなお弁当箱には、何種類ものカラフルなおかずが少しずつ入っている。

ふんわりと盛ってあるご飯に、パラパラっとかかった黒ごま。黄色にほんのり茶色の焦げ目がついている、厚焼き玉子。

洋食屋さんみたいな、オレンジ色のナポリタン。
ピンクのベーコンと、赤と黄色のパプリカ炒め。

持ち手にクリスマスみたいなリボンがついている、チューリップ唐揚げ。ふわふわの千切りにしてある、色鮮やかなキャロットラぺ。

すき間には、ミニトマト、ハム、ブロッコリ。
デザートのうさぎリンゴ。

カラフルなカップやバランで仕切られ、可愛いピックが彩りを添えている。


ワタシ以外のみんなは、お弁当箱のふたを開けると、そのふたを堂々と横におく。いいなぁ。あんなに色とりどりで。小さなクレパスの箱みたい。


それに比べてワタシのお弁当箱は、男子並みに大きい2段重ね。

上段のご飯はぎゅうぎゅう詰めで、お米の粒も梅干しもぺしゃんこ。

下段には2、3種類のおかずが大量。それも、一面、ほぼ茶色だ。


みんなに見られないようにと、いつもお弁当箱のふたで隠しながら、急いで食べていた。


ある日のこと。

友達の1人が、バターロールサンドイッチとサラダとフルーツを持って来ていた。サンドイッチのお弁当なんて1度も作ってもらったことのないワタシは、思わず、「今日は、なんかの記念日だからサンドイッチなの?」と聞いて、笑われてしまった。


友達のサンドイッチ弁当がうらやましすぎて、家に帰るとすぐさま、お弁当に対する不満を母にぶちまけた。

①お弁当箱が大きすぎる、②ご飯はふんわり入れてほしい、③おかずの仕切りはアルミホイルじゃなくて、可愛いおかずカップにしてほしい、④茶色いおかずじゃなくて、カラフルにして種類を増やしてほしい、⑤せめて、タコさんウインナくらいは入れて。

毎日作ってもらっているわりには、それはそれは偉そうな態度でまくし立てた。案の定、ケンカになった。最後に母は、「お母さんが作っているお弁当は、お父さんのためだから。文句があるなら自分で作りなさいっ!!」と一蹴。

--- まぁ、お弁当を作る大変さが身に沁みる今となっては、まったくもって母の言うとおりだ ---


ケンカの翌日。

今日のお弁当はないかも、と覚悟していた。すると、「はい、今日のお弁当。お弁当箱が大きすぎてイヤって言ってたから、小さめの細長いのにしといたよ」と渡してくれた。


その日のお弁当タイム。あぁ、昨日ケンカして気まずかったけど、作ってくれたんだ。お弁当箱も1段になったし、小さくなってよかった、と思いつつ、お弁当箱を開けた。


お弁当箱一面のご飯の上に、焼きサンマが一匹ドーンっと横たわっている。


以上。


一瞬、固まった・・・


「何これ?!」

思わず大きな声で言ったものだから、クラスメートがワタシのお弁当をのぞきに来る。

「ざ、斬新なお弁当だね」
「おまえの母ちゃん、面白いな」
「シンプルイズベストだな」・・・ざわざわ。


お弁当のふたでサンマの身がつぶれて、内蔵がご飯の上に出てますけど。

女子高生のお弁当に、コレはないわ。運動部男子だって、こんなお弁当持ってきてないのに。2日連続で母に改善要望を出したが、母は「お父さんのためのお弁当だから」と、どこ吹く風。

母は、焼きサンマ弁当のほかにも、クラスメートが引き気味になるようなお弁当を作った。それらのユニークなお弁当は、まあまあ大きめなインパクトを残したので、高校時代の友達に会うと、未だにネタとしていじられる。

ワタシが憧れていた、クレパスの箱みたいなお弁当。何種類ものカラフルなおかずが少しずつ入っているお弁当。

そんなお弁当を作ってくれたことは、結局一度もなかった。ガテン系の父の胃が求めていたのは、『量』と『腹持ちのいいガッツリおかず』だから、仕方ない。

そんなこんなで、高校時代の3年間、母はワタシにお弁当を作り続けてくれた。ワタシは、母にきちんとお礼を言ったのかな。今回、ワタシの真ん中の子が、手書きのメッセージをくれたみたいに。


お礼の気持ちを母に伝えたかどうかを確かめたいけど、20年以上も前に母は空に旅立ってしまった。


お母さん、3年間のお弁当のお礼、まだ言ってなかったかもしれないね。

お母さんらしいお弁当を作ってくれて、ありがとう。

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