見出し画像

セイシュン

 ラヴレターを貰った。高校2年のことである。ある程度予想はしていた。当時俺には好きな人がいて、振られても未練がましく想っているのも相手は承知しているはずだった。どんな顔をして受け取ったらいいのだろうか。仮にA子としよう。彼女は割とさっぱりした性格だった。
「やっぱりダメなのね」
 俺の顔を読み取りA子はそういった。その時俺はどんな顔をしていたのだろうか。
 彼女以外にも俺のことを好きなんだろうなと思える女性がいた。はっきりとではないが、そういう思わせぶりなアクションをしてきたので、逃げた記憶がある。
 そうかと思うと俺のことを男と見てないな、という女性が数人いた。俺が一途にB子(仮にそう呼ぶ)のことを好きなので、安心しきっているのだろうか。
 なぜか俺はそういう女性たちと二人きりで学校から帰宅することが多かった。狙いは自分の愚痴を聞いてほしいのだ。女性同士でもそういう話はしてるのだろうけど、男の考えとか意見を参考にしたいらしい。だが結局は一方的にこちらは聞き役になってしまうのが常であった。
 だいたいは自転車で帰るのだが、自転車では話がしづらいので、どこか適当なところで自転車を止めて話を聞くことになる。2人の様子を見た通行人はアベックだと思ったことだろう。
 ほとんどの場合は相手の男のこともお互い知っているから、女性側も話しやすい。2人で話し込んでいるのを見た誰かが、彼氏に喋ったところで、問題にはならないからである。
 1度だけ相手のことをしらない女の子の悩みを聞いたことがある。その時は、彼氏から問い詰められたらしい。くわばらくわばら。
 一番焦ったのは、同じクラブのC子。部の用事で町まで出かけた帰り。電車の中、2人並んで座って、彼女が彼氏についていろいろ喋る。そのうち感極まって、突然泣き出したのである。俺が泣かしてるみたいじゃないか。痴話げんかと思われるじゃないか。こんなに電車にお客さん入っているんだぞ。心の中でそう叫んだ。
 俺はストーカーではないが、B子をあきらめきれずに、2度目のアタックを試みた。相手は泣きながら「もうやめて」と叫んで走って逃げて行った。俺はみじめにただ茫然とするだけであった。

 ある朝、起きて学校に行こうと家を出たら、自転車がパンクしていた。なぜ昨日気づかなかったのだろう。今から修理したって、遅刻してしまうではないか。俺はそこで、頭を働かせた。そうだ道路まで出て、誰か知ってる奴を見つけて、2人乗りで学校まで行こう。
 俺は川沿いの主要道路まで歩いていき、誰か通らないか、待ち構えながら学校方面へ歩いた。
 意外と知り合い友人関係は通らないものである。A男はいつも遅刻ギリギリで、出欠取っている時に自転車ごと教室まで入ってくるようなやつだから、まだこないだろうし、B夫は道が違う。意外と人脈のない自分を呪った。
 そこへきたのである。しかもむこうから声を掛けてきた。「やった、ラッキー」と思った瞬間戸惑った。先日振ったばかりのA子だったのである。
 これはどうするべきか、悩む時間はなかった。事情を話し、俺が運転してA子が後ろに乗った。そしてまっしぐらに学校に向けて自転車を走らせた。
 するとどうだろう。知り合いが全然通らないと思っていたのに、出会うわ、出会うわ、何人も友達とすれ違った。
 教室では話題の人となってしまっていた。
 A子の友人の女の子が俺にいった。「A子がいってたよ。『振られたのに付き合ってるみたいな気分』って」
 複雑な気分になったが、A子と付き合う気にはならなかった。 

 そんなA子が交通事故にあった。外傷はさほどないが、後頭部をうったらしく、味覚がわからなくなったとのことだ。C子と見舞いにいった。
「大したことはないけど、味覚がね。多分、元に戻るとは思うけど」
 平常心の声でそういった。いつもと変わらないA子で安心した。

 A子が結婚したと話を聞いたのはC子からだった。お見合いだったらしい。まだ高校を卒業する前なのに。そうなった経緯は、いまだによくわからない。しつこく事情を聴くつもりもなかった。
 受験が近くに迫っていた。 



この記事が参加している募集

忘れられない恋物語

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?