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『女彫刻家』/ミネット・ウォルターズ(成川裕子訳)

出先で少しでも時間が空くと、
「ちょっと本屋寄ろうかな?」なんてよく魔(?)がさしてしまうのですが、
先日もそんな魔を大いに受け入れて寄り道したところ、見覚えのある表紙の文庫本が平積みされているのが目に入りました。

思い出した瞬間、一人小躍りしつつ即購入したのがコチラです。
2000年に出版されたのですが絶版になっており、
「さていつAmazonで頼もうか」とぐずぐずしていたのです。
そんな本が新装版として再登場を果たしていたのでした。

たまにはぐずぐずもしてみるもんですね。


さてあらすじです。

オリーヴ・マーティン。母親と妹を切り刻み、それをまた人間の形に並べて、台所に血まみれの抽象画を描いた女。無期懲役囚である彼女には、当初から謎がつきまとった。凶悪な犯行にも拘わらず、精神鑑定の結果は正常。
しかも罪を認めて一切の弁護を拒んでいる。かすかな違和感は、歳月を経て疑惑の花を咲かせた…。本当に彼女の仕業なのか?
MWA最優秀長編賞に輝く戦慄の物語。

『女彫刻家』より

私はこの手の「凄惨かつ不可解な」ミステリーが大好物なのでワクワクしながら全ての予定を蹴りつつ読みました。

(ここからは個人の感想、かつネタバレを含みます)


結論から言うと期待値が大きかったんでしょうか。
なんだか煮えきりませんぞ。ワクワクの不完全燃焼。

「ははぁ、なるほど」と思わされる犯人ではありましたが、事件の残酷性との関連があまりに薄く説明不足と感じます。

あらすじでもわかるとおり、異常としか描写できない猟奇的殺人事件なのにその辺が非常にあっさりとしていて取り残されてしまいました。
海外ドラマ『クリミナル・マインド』のハズレ回みたいな気持ちです。

最終的にはものすごい匂わせの中(まるで金田一少年の事件簿最終巻のような)幕を閉じるのですが、余地や余韻も持たせすぎると

「なんでやねん」

に繋がるのだなと思います。

なんでバラバラにしたの。
なんでそれを並べたの。
なんで刑務所で粘土こねてんの。

加えてちょっと苦手だったロマンス要素。
スティーグ・ラーソン『ミレニアム』なんかはその辺の男女関係とストーリーのバランスというか、塩梅がうまいなぁと個人的には思っているのですが、本作のロマンスは、
「こんなことが起きたらいいな」っていう理想を取り入れてやりましたよ、と言わんばかりの恋愛要素で、そこから読むペースがあからさまに失速してしまいました。

美女とタフガイの偶然の出会い。
美女とタフガイの近づいていく距離感。
美女とタフガイのソファーでのイチャイチャ。
美女とタフガイの海沿いの一軒家でのハッピーエンド。

ふぅ。

でも完読してしまうほど、やはり読まされるというかテンポよく読める作家でした。


「ミネット・ウォルターズ論」をあとがきで展開しているのは小説家・野崎六助さん。
「あとがきにしていいの?」って思うほどかなり痛烈でコチラも一読の価値ありです。

コチラの作品を「4Fミステリである」と仰られてますが(女性作家による・女性探偵を主人公とした・女性読者のための・女性翻訳家によるミステリ)、
良いとか悪いではなく確かにそうだなと頷ける後書きでした。

でもよくある「コージーミステリ」ジャンルよりは本格寄りなのかな?

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