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花開いた地味男

<高橋ヒロム vs エル・デスペラード>
原色のロックスターと真っ白な地味男。

鈴木軍がノアに参戦していた2015~16年ごろ。デスペラードが他のメンバーの試合でセコンドについてちょっかいを出した際、前の席に座っていた年配の男性が「ふざけるな○○!」と立ち上がったことがありました。○○はデスぺの正体と目されている選手の名前です。

ノアファンの大多数は常識ある大人の方々。すぐ男性を嗜めていました。ただそんな野次を飛ばされてしまうぐらい、当時のデスぺが不甲斐なかったのも事実でした。

とにかく全体的にパッとしない。仲間のTAKAみちのくに「タイチと組んでも俺と組んでも駄目」「マスク脱いでもブサイクだし」などと評される始末。せっかくギターを持参しても使わないし、コメントは誰かの二番煎じ。自信がないのかなって。

そんな彼の試合が私的ベストバウトになる日が来るとは夢にも思いませんでした。ブサイク? 全然ブサイクじゃないです。素顔になった瞬間驚きました(本来は相手のマスクをレフェリーの見ている前で剥いだら即反則負け。そうならなかったのは、ヒロムに上半分を破られた後、残りをデスぺが自らの意志で脱ぎ捨てたからでしょう)。私の知っている○○はこんなにカッコよくなかったので。

じゃあデスぺは○○じゃないのか? いやこの顔は○○だし。でもこんなイケメンじゃなかったし……と無駄に堂々巡りしてしまうほど輝いていました。ヒール的な足殺し(いかにも躓いた風にニードロップを叩き込むアイデアが秀逸!)を基調に据えた技の組み立ても、新日本の生え抜きらしいストロングスタイル。いまのトレンドである「身体能力&高難度プロレス」とは明らかに一線を画しています。連綿と受け継がれる確かな技術を下地にし、そこへ現代のアイデアを盛りつけた感じ。

小説でたとえたらヘミングウェイのスポンジケーキに町田康のチョコクリーム? 知らんけどとにかくそのような何か。

故・野村克也さんが「念ずれば花開く」という言葉をよく紹介していました。坂村真民(さかむら しんみん)という人の詩の一節に出て来るとか。いまのデスぺを見ていると「まさにこれだよな」と感慨深いし、励みにもなります。改めてプロレスってすごいですね。マジで人生の縮図だわ。

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