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環状線の中と外

最高でした。どの試合もそれぞれの色が出ていて面白かったです。個人的にはセミファイナルのタッグタイトルマッチが印象に残っています。タイチ選手はたぶん前回の試合で延々とふたりでの攻撃を続け、ライガーさんに「何でレフェリーは黙って見てるんだ?」と怒られたことを覚えていたんですね。9割方攻め込まれながら、最後の最後に一瞬の連携で3カウントを掠め取る。かつてのダッドリー・ボーイズを思い起こさせる名タッグチームの勝ちパターンでした。

前にも書きましたが、WWEではタッグチームの連携攻撃も反則カウントの5秒以内にやることを意識づけられています。何でもかんでも「アメリカでは」という「出羽守」にしたくないのですが、やっぱりレフェリーがルールに厳格じゃないと、その目をいかに盗むかいかに出し抜くかという知恵比べに緊張が生じません。どうせ反則負けにしないんでしょと思われたら終わりです。とはいえ昔の新日本は蝶野選手がレフェリーの見ている前で急所を蹴ったりグレート・ムタが毒霧を吹いたりしても反則負けにならなかったので、だいぶ改善されています。

メインももちろん素晴らしかった!! 内藤選手がいつの間にかファンを安心させる絶対的なヒーローになっていました。同じフレーズでもオカダ選手が口にするのと内藤選手が言うのではニュアンスが違うんですよ。オカダ選手は目の前のファンに対して、というよりは業界を代表して全世界に向けてみたいな感じなんです。それが悪いわけじゃないんですけど、プロレスファンというのは私も含めて「対世間もいいけど、もっと俺たちを見てくれよ!」というかまってちゃん気質ですからね(笑) 内藤選手は自身が熱心なファンだったから、そのことを熟知しています。良くも悪くも彼のプロレスは「内向き」なんです。プロレスに興味のない人を振り向かせようじゃなくて、いまプロレスを好きな人を楽しませよう、それを続ければ興味のない人もいつか振り向いてくれるというような。

一方のオカダ選手はキャラクターや佇まいも含めて明らかに「外向き」です。知らない人にもっとプロレスを届けたいと。まさに猪木さんの「環状線理論」です。大きい会場を埋めていくには、普段プロレスを見ている固定ファン(=環状線の内側)以外の人を外から引っ張ってこないといけないと。今回のKOPWもそうですよね。一般メディアが話題にしたくなる斬新な仕掛けを持ってくる。実際Numberが疑問を投げ掛ける記事を書きましたよね。あの時点で成功です。棚橋選手が猪木さんのパネルを道場から外し、その後継者たるオカダ選手が再び猪木さんの哲学へ回帰していく。興味深いですね。決め技がレインメーカーから変型コブラクラッチに変わった理由も実はその辺にあったりして。

意図的なのか偶然なのかはわかりませんが、結果的に互いの適性を活かす役割分担ができていると今回思いました。外国人もしばらく呼べないですし、当面の新日本のリング上は「内向き」でいいのかなという気がします。でもコテコテのマニアではない一般の人が見たらどう思うかという視点も忘れて欲しくない。その意味では今の二大エースの立ち位置は理想的です。彼らが再びリングでぶつかる日を楽しみにしています。


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