見出し画像

「弱者の兵法」を見たかった

日本シリーズ終わりましたね。
巨人のパワー負け、ということでもないと思いました。
率直に言うと全てにおいて負けている。両リーグの野球の差ではなく、シンプルに「両軍の意識及び練習量の差」でしょう。

かつての野村ヤクルトなら「弱者の兵法」を駆使して、もっと攪乱したはず。96年のオリックスとのシリーズ前、野村さんは「イチローは内角高めに弱点がある」とメディアに言い続けました。これは内角を意識させて身体を開かせ、外への配球で打ち取る策。イチロー選手は最終的に見抜き、第五戦でホームランを打つのですが時すでに遅し。ヤクルトが四勝一敗で日本一になりました。

一方、巨人の原監督は「全戦DH制で」というソフトバンク・工藤監督の提案をあっさり飲みます。普段セリーグへのDH制導入を主張しているから拒否したら辻褄が合わないと思ったのでしょうが、そんなことは気にせずノーと言うべきでした。普段通りの戦いをされたら分が悪いのは明らかだから。もしくは「じゃあ代わりに予告先発なしで」と逆提案しても良かった。野村さんや落合さんならそれぐらいのことをして様々な罠を用意したはず。始まる前の首脳陣の「勝負に対する意識」がすでに違ったのです。

投手の球の速さや打者のスイングスピードでも差を感じました。配球のことで頭がいっぱいなはずの九番甲斐選手ですら、あのスイング。でも巨人の選手が力で劣っている分を技や頭脳、意識の高さでカバーできていたかというとそうでもない。たとえば走塁。一塁へ全力でヘッドスライディングをする長谷川選手と相手の足を踏む丸選手。ここを比較するだけでも見えてくるものがあります。

巨人が唯一スモール・ベースボールの片鱗を見せたのは、第一戦で千賀投手の「お化けフォーク」をほとんど振らなかったこと。でも大城捕手のリードは素人が見ても「ん?」となることが多かった。初戦の栗原選手の第三打席や二戦目の柳田選手の第一打席など。スコアラーが有効なデータを持ってきても、それを最大限に活用できていないのかもしれません。

大雑把なパワー・ベースボールが緻密なスモール・ベースボールを圧倒することはあり得ます。でも大雑把なスモール~が緻密なパワー~を上回る要素はゼロ。それでも巨人がセリーグを独走したのは事実ですから、他のチームは考えないといけない。

私は力や物量で圧倒するハリウッド映画的な強者の戦法より、知恵や適材適所でライバルを出し抜く自主映画的な弱者の兵法が好きです。我が身に重ねて多くのことを学べるから。来年の日本シリーズではそういう試合を見たいものです。


この記事が参加している募集

スキしてみて

作家として面白い本や文章を書くことでお返し致します。大切に使わせていただきます。感謝!!!