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青いリボンが結ぶ白昼夢(読書記録15)


■人形と私

今回の読書記録は「人形たちの白昼夢」(著:千早茜)ということで、人形をテーマにしたエッセイを一つ。

私は子どもの頃、一般的に人形と認知されている、フランス人形やリカちゃん人形とは縁遠かったものの、小さなゴム人形とは密接な関りがありました。
私が集めていたものというよりは、兄が集めていたものをそのままもらい受けた形になるのですが、聖闘士星矢やキン肉マン、ドラゴンボール、ガンダムなどのゴム人形が大量にあったので、遊ぶのに困りませんでした。

幼い頃はこのゴム人形を使って延々と一人で遊んでおりまして、毎回ストーリーを考え、遊びを中断しなければならないときには、そのストーリーを覚えておいて、次に遊ぶときに再開したりだとか。後は夜布団に入る際も人形を持って入り、寝るまで遊んだのですが、このときのストーリーは寝る前に終わるように短いものにしたりだとか。

この遊びが、今小説でストーリーを考えるのにちょうどいい訓練になっていたのかもしれません。

残念ながらこの人形たちは既に廃棄されてしまっていて、もうありませんが、未だにはっきりと思い出せる人形があります。

群青色の人形で、ヘルメットを被った、戦闘服のような(ただし軽装の)服を着た戦闘員のような人形で、右手を前に突き出し、左手を肘を折って頭の横に掲げているポーズでした。

この人形はなんとなく琴線に触れるようなかっこよさとごてごて装飾していないシンプルさが気に入って、度々ストーリーの主役に据えたことを覚えています。

思えば物語が自分自身のためだけに存在したあの頃が、一番幸せなときだったのかもしれませんね。今思い出すに懐かしいです。

■12の短編集

  • コットンパール

  • プッタネスカ

  • スヴニール

  • リューズ

  • ビースト

  • モノクローム

  • アイズ

  • ワンフォーミー・ワンフォーユー

  • マンダリン

  • ロゼット

  • モンデンキント

  • ブラックドレス

上記の12編で構成された短編集になっています。コンセプトとしては、人形が作品の主題であること。その主題を結ぶモチーフとして青いリボンが用いられていることを意識して読むと、それぞれの作品の繋がりが見えてくるのではないかなと思います。

数の多い短編集なので、登場人物や一つ一つのストーリーについては割愛しますが、私が好きだったのは、ビースト・ロゼット・モノクローム辺りでしょうか。
特にロゼットが好きです。
時計技師が人間大の人形を時計として作り始めるに至ったその理由。そして増えて売られていっても、時計技師のところへ帰ってくる人形。
ぜひ、ご一読を。

■感想

こうした連作短編って、互いの話通しの繋がりの濃淡の調整が難しいと思うんです。私のような素人だと、繋がりを強くしがちですが、この短編集は繋がりが香る程度に淡く、しかし繋がっているといういい塩梅で書かれていると思います。
モチーフに青いリボンを用いたのもうまいなと思いますね。リボン、というだけで「結ぶ」という繋がりを意識させるので。
短編それぞれの内容も多彩で、繊細です。「モノクローム」の中である男が「文字はなんだってできる」と言ったように、作者の手は物語を生み出し、それを味わった私たちは、「スヴニール」で記憶を呼び覚ます料理を食した主人公のように、どこか懐かしい感慨を呼び覚まされるのです。

人形、は私の小説でも主要なテーマです。アンドロイドやオートマタといった精巧な機械人形が中心ですが、私が人形というテーマに拘るのも、幼い頃の遊びが根底にあるのかな、と思わせられた読書体験でした。

それではまた、次の読書記録でお目にかかりましょう。

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