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30代の魔法少女はなもむ(読書記録25)


■失われたものを求めて

今回の読書記録は村田沙耶香著:『丸の内魔法少女ミラクリーナ』。
表題作を含む全四編からなる短編集です。
収録されている作品は、
・丸の内魔法少女ミラクリーナ
・秘密の花園
・無性教室
・変容
です。

今回の短編集を読んで感じたことは、四作とも、失われた、あるいは失われつつある何かを主題にしているということです。
『丸の内魔法少女ミラクリーナ』では、幼少の頃誰しもごっこ遊びをする魔法少女のように、純粋な想像力を。『秘密の花園』では初恋。『無性教室』では性別を。そして『変容』では怒りなどの感情を。

やはり表題作の『丸の内魔法少女ミラクリーナ』が題の通り突っ走っていて、面白かったですが、『無性教室』なんかも性別をぼかして分からなくしているからこその、妖しい美しさが漂う一編でした。

全体的には、『地球星人』ほど突き抜けた癖がなく、マイルドな読後感です。なので、村田沙耶香の作品の入門用にちょうどいい短編集ではないかなと思いました。

■この短編集なもむよね

『変容』では、怒りが失われた光景が描かれます。その代わりのように登場してきた概念、感情のようなものが「なもむ」。作中の解説を引用すると、

『異常なほど想像力を搔き立てられ、意識が飛んだようになり、異常行動への欲求が高まること。または、それについて絵を描いたり歌を歌うなどの表現がしたい、という創作への欲望が搔き立てられること。単なる感動や情動には使わない、あくまで、それに関してなんらかの異常なほどの衝動を覚えたときにのみ使う。ただし、主語が子供の場合には例外もある』

村田沙耶香著:『丸の内魔法少女ミラクリーナ』「変容」より

という感情です。とすると、noteの住人の多くはなもんだことがある。あるいは日頃からなもんでいるのではでしょうか。

この短編集を読んだ私はなもんで、創作がしたくなりました。何かを書いて表現したくてたまらなくなったのです。そうか、それが「なもむ」か、と身を以て知ったのでした。

一番なもんだのは、やはり『丸の内魔法少女ミラクリーナ』。36歳という他人とは思えない年齢設定が突き刺さったし、こっそり心の中で魔法少女に変身し、現実の理不尽を笑顔で乗り切っていく主人公には、敬意すら抱きます。
その彼女が、友だちのモラハラ男との対決で、魔法少女である自分を見失い、みるみる日々に疲れてやさぐれていってしまう。そこで私たちはなもんで、彼女が魔法少女の心を取り戻し、モラハラ男など撃退してくれることを祈るのです。

私は男なので、魔法少女というよりは、仮面ライダーや戦隊ヒーローになるのかもしれませんが、心の中で変身することで、現実を笑顔で泳いでいけるなら、変身するのもいいのではないかなと思います。


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