赤ん坊は風呂場で産まれた vol.3
出産予定日まで、あと2週間と迫った。
臨月のお腹はこれ以上ないくらいに膨れ上がり、まるで割れる寸前のパンパンに膨らんだ水風船のよう。もちろんずっしり重たい。
一人目で経験したはずのこの動きの鈍さは、二人目ともなれば年齢もその分重ねているわけで、足腰痛いし、さらに重たく感じた。
身体の変化は著しいが、心の変化も少しはあった。
こどもがひとりから、ふたりになるのだから、楽しみでもあるけれど生まれたあとの生活はどう変わっていくのだろう。
これまでも育児と仕事の両立は簡単なことではなかったし、どちらにもやる気はあるとはいえ、人数が増えて楽になることなんてきっとないんじゃないかとも思う。
じゃあ、どうしてわたしは二人目を授かりたかったのだろう。運良く命を宿し、こうして産む準備をしているのだろう。
それは、自分の育った環境が大きく影響していると思う。わたしには3つ上の姉がいる。幼い頃はよくケンカもしたし、仲が良かったとは決して言えない。でも大人になってから、本当に姉には幾度となく支えてもらってきた。一緒に買い物に行ったり、ご飯を食べに行ったり、そういった日常の楽しみを共有したり、悩みがある時などは、姉には包み隠さずなんでも話すことにしている。
家族だけれど、親友のような、ものすごく頼りにできる人。姉のような存在がいるというのは、本当にありがたく、わたしがこれから生きる上で、自分に巻き起こるすべてのことを、やいのやいの言いながら報告したいと思っている。支えてもらった分、わたしも支えになりたいと思う。
わたしにとって、姉の存在はとにかく大きい。大人になってからは特にそう思う。だから、自分が家庭をもつのなら兄弟がいるといいなあと思っていた。
大人になってから、それぞれがどんな人生を歩むのかなんて誰にもわからない。幼少期も仲良くできるのかなんてわからない。けれど、こうしてありがたいことに授かることができたのだから、精一杯愛を尽くしてやりたいと思う。心配なんてしたらきりがないけれど、家族が増えることはきっと楽しい。
二人目の出産は長男へのギフトだ。最高の贈りものになったら、嬉しい。それは下の子にも言えることだけれど。
家族3人で過ごすのもあとわずか。
「3人家族最後の写真を記念に残したいね。」と、友人のカメラマン、神ノ川智早ちゃんに声をかけ、撮影をお願いすることにした。
撮影場所は、私たち夫婦のお店「東京おかっぱちゃんハウス」で。
結婚したときも、妊娠中も、産後もずっと彼女に撮影をお願いしてきた。私たちの全てを知っている彼女にしか撮れない家族の姿が在る。
3人家族最後の写真を見事に撮影してもらい、お店の一階へ。
お昼ご飯を食べたあと、いつもと違うお腹の痛みが突如やってきた。
キリキリキリ・・・!!!!
うん?これは???もしかして陣痛かもしれない。痛みが増していく一方なので、助産師さんに電話をする。
「ちょっと痛いです。生理痛のひどい感じ・・10分間隔で痛くなる。。」わたしの声を聞いて助産師の渡辺さんは「いますぐ来てちょうだい!ご主人は近くにいるの?近所だけど、車で来て。」と、電話を切った。
撮影が終わった途端、なんと本陣痛が始まってしまった。わたしは撮影を終えた智早ちゃんに「産んでくる・・・!」と言って別れを告げた。
一人目の出産は、陣痛から21時間後に出産。さて、今回はどうなるのか。早く産まれたら、智早ちゃんに生まれたばかりの我が子を撮ってもらいたいなあ。なんて、ぼんやり考える余裕もまだその時はあった。
お店から車で5分の場所に助産所はある。石神井の川沿いにある小さな一軒家。車を降りると助産師の渡辺さんが迎えてくれた。
「ゆっくりでいいわよ、呼吸を止めないでゆっくりすすんでね。」
彼女の肩に手を回し、少しずつ歩いて家の中に入った。
つづく
次回は「赤ん坊は風呂場で産まれた vol.4」をお届けします。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?