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#季節感
18 西日の中謝るためにゆく仕事
句集「むずかしい平凡」自解その18。
仕事は仕事でも、こういう仕事はあんまり進んでやりたくない仕事ですね。ただ、立場上こういうことをしなくていけない、そういうときは必ずあります。しかも西日の中。
学生時代、自動車の部品工場でアルバイトしていたのだけれど、大きな会社から注文を受けて、それを作って納品したその部品に、不良品が出たとある日連絡がありました。夕方の、西日のきつい日でした。なぜかア
17 幹を這う蛍よ戦病死の叔父らよ
句集「むずかしい平凡」自解その17。
父親は昭和12年生まれの末っ子。戦時中は子どもだったため、徴兵されることはなかった。けれども、父の兄たち、つまり、私にとっては叔父たちはみな戦争に取られ、みな死んでいった。叔父はふたりいたようだけれど、私は名前を知らない。フィリピンで死んだと子どものころ聞いたような記憶。
後年、父親と話すことがあって、それは戦死は戦死なんだろうけれど、戦病死だな、と
16 祖父病んで父祖の田ただの夏草に
句集「むずかしい平凡」自解その16。
これもまあ読んでそのままの句なんですけれど。
祖父というのは、私自身の祖父のことではありません。知っている若い友人の祖父。じいちゃんが病気なっちゃって、田んぼがすっかり荒れちゃって、とそんなことをボソッとつぶやいていたのが、どこかに残っていたんです。代々受け継いできた田んぼを、父も継いでいないし、自分も継ぎたいとは思わない。だから夏草に任せるままにな
15 蟻と蟻ごっつんこする光かな
句集「むずかしい平凡」自解その15。
句集の帯にもこの句を使いました。また、デザインにも登場してもらい、蟻君には大いに活躍してもらっています。
蟻と蟻がぶつかるように見えたんですね。べつに彼らはなにかを確かめているだけなんだろうけれど。でも、なんだかあの黒い頭と頭がぶつかって、ごつんと音を立てているかのようでした。出会いをしっかり確かめ合っているんだろうか。そして、夏の暑い日差しの中、そ
14 夫婦喧嘩につつーっと降りて蜘蛛光りぬ
句集「むずかしい平凡」自解その14。
この句は人気ある句ですね。情景はこの句のまんま。
夫婦喧嘩がだんだん熱くなってきた。たがいに自説を曲げない。相手のちょっとした言葉尻をとらえて責め立てる。過去の間違いも引き合いに出して、だからあんたは、だからおまえは、と果てるところがない。
そんなとき、天井からつつーっと蜘蛛が降りてくる。夫婦喧嘩の間に入って、蜘蛛がきらっと光る。べつに何を言い出
13 はつなつの淋しさいちまいの湖
句集「むずかしい平凡」自解その13。
「はつなつ」とあえてひらがなで書きたくなったんですね。
漢字で書けば「初夏」。これだとふつう「しょか」と読む癖があるので、ここは「はつなつ」と読んでもらいたかった。ならば最初からひらがなで書いてしまえ、と。
初夏はたしかに気持ちのいいものです。若葉、薫風、青空、などなどなんだかうれしくなる季節。でも、その一方で、どうにも気持ちがふさぐというか、ま
11 麦秋や空が彼女の遺書でした
句集「むずかしい平凡」自解その11。
麦秋とも、麦の秋とも言いますね。
六月ごろに麦が実ってくると、枯れた茶色になってくる。季節は夏だけれど、なにか秋の色のような雰囲気。季語の面白さですね。
麦秋のころの青空が、気持ちいいいような、そして少し物悲しいような、そんな印象で、いつも胸がかるく締め付けられるような感覚があります。
「空が彼女の遺書でした」のフレーズを具体的には言いたくな
10 棕櫚咲いてかりっと完璧なトースト
句集「むずかしい平凡」自解その10。
写真をトーストにしようかなとも思ったんですが、ごめんなさい、探しても完璧なトーストの写真はなかったので、棕櫚にしました。棕櫚のつぼみですね。これからふわっと咲いていくところの様子です。
季節はこれも初夏。あかるく、からっとした風が吹くような天気の朝。
完璧なトーストとコーヒーで朝食を食べた。
ただそれだけの句。それ以上でもなく、それ以下でもな
9 夏蝶往来木陰はたましいの広場
句集「むずかしい平凡」自解その9。
木陰に涼んでいたら、夏蝶がやってきては去り、またやってきては去り、まるで蝶にたちにとっての広場だなあ、と、そんな風に感じていたら思わずこんな句になりました。
といっても、少しは推敲して練り上げましたけど。
「たましい」と言ったのは、なにかそこに単なる偶然ではなものを感じたからそんな言い方になったと思うのですが、直接的には、俳句の師、人生の師、金子兜
8 桜桃忌夜明けとともに新たな雨
句集「むずかしい平凡」自解その8。
「桜桃忌」とは太宰治の亡くなった日。6月13日。
最後の作品が「桜桃」という小品だったこともあって、桜桃忌ということになったし、また時期的にもさくらんぼ(桜桃)が出回ることもあります。
太宰治は私も好きな作家。偉ぶらない、率直な人物だったんじゃないかなと感じます。
まあ、家族にはいろいろつらい思いもさせたんだろうけれど。
それでも、どこか