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18 西日の中謝るためにゆく仕事

 句集「むずかしい平凡」自解その18。

 仕事は仕事でも、こういう仕事はあんまり進んでやりたくない仕事ですね。ただ、立場上こういうことをしなくていけない、そういうときは必ずあります。しかも西日の中。

 学生時代、自動車の部品工場でアルバイトしていたのだけれど、大きな会社から注文を受けて、それを作って納品したその部品に、不良品が出たとある日連絡がありました。夕方の、西日のきつい日でした。なぜかアルバイトの私が車に同乗し、その部品の回収に伴うことになりました。

 大会社の工場は、けた外れに大きく、町の小さな工場からしてみれば異次元の世界。そこへ乗り込んで、不良品の自社製品を回収してくる。当然、大会社の人たちには謝罪を入れる。もちろん上司が謝るわけですが、そのときに下請けの悲哀を感じないわけにはいきませんでしたね。こちらが頭を下げても、相手は別に怒るとか何か文句とかいうわけでもなく、ふーん、○○精工さんね、ああ、例のやつ、その辺においてあるから早く持って帰ってね、とそんな態度。言外に、ちゃんとやらないと仕事なくなるだけだよ、頑張れよ、というニュアンスが濃厚。そして、部品がその辺にあると言われてみたものの、それを探すのがまた一苦労だった。

 ノギスを使って、不良品を確認し、持ち帰るものを車に積み込んで、帰ったのがもう夜10:00近かった。不良品を出したのは私でもなかったし、その上司でもなかったけれど、それでも謝らなくてはならない、それでもきちんと処理をしなければならない、そいう仕事があるんだなと痛感しました。理不尽だけれど、だれかがそれをやらないといけない。

 今日も謝るために仕事をしている人がどこかにいるんだろうなと思うとちょっと切ない。しかし、それも大事な仕事の一つ。

 運が悪いなあ、なんで自分ばかり、と思うかもしれないけれど、自分の尊厳までも見失わないようにしたいですね。

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