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はじまり語り

おもての、どまには
たたみのへりから、あなたの足がほんの少しだけ見えていて
足のゆびのつめは 、おやゆびと ひとさしゆびと なかゆびと くすりゆびと
そして、五ばんめのつめはすっかりつぶれてしまっている。

いつも、靴のなかで 五ばんめのゆびは
「とてもきゅうくつ」「とてもきゅうくつな毎日」
たまには、くつをぬいで こゆびのつめをのばしてあげてくださいな。
まいあさ、かおを洗うように 五ばんめのこゆびのつめも 
たまにはブラシであらってくださいな。

そうしたら、もう少し遠くまで歩けるようになるかもしれません。
毎日歩く、公園までの距離よりも 
もう少し遠くまで歩けるかもしれません。
もしかしたら、ひと駅むこうのたばこ屋さんまで歩けるかもしれません。
おつかいにだって、もっとたくさん行けるかもしれません。
そうすれば、きっとおとうさまも おかあさまも おじいさまも 
おばあさまも おねえさまも おばさまも おじさまも
私のことを もっとほめてくださるでしょう。

くつが痛いのはくつが小さいからではないのです。
わたしの足がどんどん大きくなって 子供の足ではなくなっていくんです。
子供のくつがはけないのです。
だれか私に 大きな 大きな 子供のかわいいくつを探してください。
もし、探してくれたら
かわりに
とても楽しいところへ行きましょう
ここから先は あなたと私の ひみつです。


2012年9~10月 
映像作品「ハイジ52-flower」冒頭即興語りの書き起こし
https://vimeo.com/manage/videos/131192263

©松井智惠

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