アーティスト紹介【Who's Who】 Kyoung-a Ham ハム・キョンア、今の社会の別の顔を暴く。
アジアに初上陸した世界3大アートフェアの一つ、FRIEZE SEOUL。ここで拝見した作品の中で、とても印象深かった作品は、北朝鮮の刺繡家との禁忌の交流を通して完成されたハム・キョンアの息をのむような美しい作品であった。
まず、その精工で、驚くばかりの華やかで美しい作品を観てみましょう。
遠くで観ると、キャンバスにオイルか、アクリルの絵に見えるが、実はこれは、刺繍の作品である。
黒と金のコントラストが実に美しい。
さらに、驚かせるのは、この作品のバックグランドにある物語である。
この作品達は、韓国では、禁忌になったいる北朝鮮の手芸家との疎通によって、完成されたものである。
偶然、家の玄関の前に落ちている北朝鮮からのプロパガンダのチラシを発見したことから作品の物語は始まる。その後、中国のブロッカーを通して、北朝鮮の手芸家を買収し、自ら刺繍デザインを起こして渡して、北朝鮮の手芸家たちに刺繍を依頼して作品を完成させる。また、その疎通の過程で、アーティスト自身が異文化、異政治から影響を受けたように、こちらからの発信、影響を与えることを念頭に色々なキーワードを含めて疎通し始める。北朝鮮の匿名の手芸家たちは、彼女とのやり取りで何を思い、どういう衝撃を受けたかな?このふくらみも芸術鑑賞の一つで、アーティストが狙うところである。
即ち、完偶然な一つのチラシの発見から始まって、完成された作品までの一連の過程自体が、強烈な作品である。
創作過程においての禁忌への挑戦、検閲、不安、賄賂など、浮かびあがる物々しいキーワードから、ただならぬ緊張を感じる。また、その緊張とは相反する作品の美しさ、精工さ、完成度の高さに驚いてしまう。
北朝鮮との関係は悲劇的な状況であるが、映画、小説、ドラマ、アートなど色々な分野のクリエーターに題材生を与える特殊な環境であることは、間違いなさそうである。分断という特殊な関係に置かれた韓国の今ならではの、芸術のレパトリである。そこには許可されていない禁忌への挑戦があり、スペタクルな物語の構造があり、未知への覗き心もある。
ハム・キョンアは、現実の固い甲羅の中に隠れたシステムのルールや禁忌に挑戦し、現実の矛盾と不条理を執拗に取り組むアーティストである。
彼女の作品は、即興的なアイディアで始まるが、今回紹介した作品のように長期間にかかる労働や費用をかけて完成にいたるものが多い。
アジアの色々な国で偶然に見かけた黄色い服を着た人たちをおいかけて、彼らの社会、文化、宗教の意味をリサーチし、東南アジアで生産されるバナナ価格の暴落の背景を探る作品活動をしたり、前大統領の自宅から出たごみを集めて、韓国現代史の悲劇を浮き彫りにするなど、今現在を生きる私達の社会に潜められた不条理を作品活動を通して暴いている。
1966年ソウル生まれ
1989年ソウル大学卒
1992年Pratt Institute (USA) 修了
1995年 School of Visual Arts(USA) 修了
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