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【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

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今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の… もっと読む
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2022年11月の記事一覧

月の砂漠のかぐや姫 第249話

月の砂漠のかぐや姫 第249話

 理亜の口を飛び出したその言葉は、王柔が理亜に呼び掛けた叫び声と同じように、地下世界の天井や石柱で何度も反響しました。でも、その声の反響の仕方は王柔の声のそれとは全く異なっていました。王柔の声は何度も反響を繰り返しながら広がっていきましたが、それに伴って少しずつ小さくなっていきました。ところが、理亜の声はどれだけ反響を繰り返しても、その声の大きさは全く変わりませんでした。いいえ、むしろその声は大き

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月の砂漠のかぐや姫 第248話

月の砂漠のかぐや姫 第248話

 もっとも、それは理亜本人が明確な意思を持って行っていることではありませんでした。「行くんだ。行かなくちゃいけないんだ」と心の内側から理亜を激しく突き動かすものがあって、今の理亜はそれ以外のことは何も考えられない状態になっていたからでした。
 長く続いた洞窟を抜けた後でこの地下世界に降りてきて目に見えない薄い膜のようなものをツンッと通り抜けたと感じた瞬間に、理亜の心の中に何かが生まれていました。も

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月の砂漠のかぐや姫 第247話

月の砂漠のかぐや姫 第247話

 一方で、川の近くや自分たちが立っていた場所の近くで理亜を探していた羽磋も、彼女を見つけられずにいました。洞窟の中とは違って地下世界は明るいとは言え、地面には大きな起伏がたくさんあります。これだけ周りを見回しても見つからないということは、彼女は窪んだ場所のどこかで座り込んでいるのではないかと考えた羽磋は、地面が落ち込んでいるところへ走り寄ってはその中を見下ろしました。でも、近くにある窪んだ場所を一

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月の砂漠のかぐや姫 第246話

月の砂漠のかぐや姫 第246話

 王柔の上げた声に背中を叩かれて、これから行こうとする石の柱の方をじっと見つめていた羽磋は、慌てて振り返りました。不安や心配を口にすることが多い王柔でしたが、王柔のこの声はこれまでに羽磋が聞いたどの声よりも、不安と混乱でいっぱいのものでした。
 羽磋は次から次に起きる新しい出来事について考えることで精一杯でしたし、理亜は王柔のことを兄のように慕っていましたから、彼女のことは王柔に任せていました。そ

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