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【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

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今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の… もっと読む
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2021年10月の記事一覧

月の砂漠のかぐや姫 第209話

月の砂漠のかぐや姫 第209話

「じゃあ、もう一つの方も・・・・・・」
「そうですね、やってみましょう。理亜、あっちの洞窟にもお願いできるかな」
「うんっ。いいヨ」
 羽磋に促された理亜は、とても嬉しそうに小走りで奥の洞窟の方へ向いました。そのすぐ後ろには羽磋と王柔が続きましたが、王柔はいつでも抜けるようにと自分の短剣の柄をしっかりと握りしめていました。
 すぐに奥の洞窟の方の内部にも、理亜の甲高い「誰かいますかあ」という呼び掛

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月の砂漠のかぐや姫 第208話

月の砂漠のかぐや姫 第208話

「あ、そうだ。ねぇねぇ。来てっ」
 何かを思いついたのか、理亜は二人についてくるように促しながら、手前の洞窟の入り口の方へ小走りで向かいました。水面が放つほのかな青い光に満たされた地中の大空間という、日常の世界とは全くかけ離れた状況ではありましたが、理亜の様子には怯えというものは全く見られず、むしろ、楽しんでいるかのようにさえ見えるのでした。
 洞窟の広い開口部の前に立つと、理亜は後ろをちらりと見

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月の砂漠のかぐや姫 第207話

月の砂漠のかぐや姫 第207話

 羽磋たちは、大空間の池の水が流れ込んでいる洞窟の様子を調べるために、さらに奥へと進んでいきました。大きな池を有するこの大空間を広げた敷き布に見立てるとすれば、その洞窟がある一帯は敷き布の角をねじって紐状にしたような細くて曲がりくねった場所でした。大空間の中で池のように溜まっている水は、ほとんど水面に動きを見せずに静かに青い光を放っていましたが、ここでは地表を走る川の様に音を立てながら流れていまし

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月の砂漠のかぐや姫 第206話

月の砂漠のかぐや姫 第206話

「と、言うようなことを、ずっと考えていたのです。王柔殿。ここからでも見えますが、この広い空間から水が流れ出ている洞窟は、どちらも歩いて奥へ入っていくことができそうです。あの奥の方がどうなっているかはわかりませんが、外に繋がっているかもしれません。だから、まだ僕たちは地中に閉じ込められたと決まったわけでは無いんですよっ」
嬉しさを隠し切れない様子で勢いよく話す羽磋を、王柔は眩しいものを見つめるときの

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