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【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

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今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の… もっと読む
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2020年1月の記事一覧

月の砂漠のかぐや姫 第93話

月の砂漠のかぐや姫 第93話

「理亜殿の身体の問題は、やはりヤルダンの中で母を待つ少女の奇岩の声を聴いた、これがきっかけとなっているのではないかと思われます。そして、王花の盗賊団の者たちが、ヤルダンの中で奇岩に襲われた、これも当然のことながら、ヤルダンの中での話です。二つの問題が関連しているのか、それとも別々のものかは判断できませんが、いずれにしても・・・・・・」
「ヤルダンの中に踏み込むしかねぇ、よなぁ。やっぱり」

 淡々

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月の砂漠のかぐや姫 第92話

月の砂漠のかぐや姫 第92話

「王花サン、みんな、大丈夫デスカ」

 一時的に、自分の心の中の方へと意識が向き過ぎていたのかも知れません。王花は心配そうな理亜の声で、我に返りました。

「ああ、ありがとう、理亜。大丈夫、みんな酷いけがをしているし、疲れ果ててもいるけど、もう血は止まっているようだから、命の心配はせずに済みそうだ。ほんとにありがたいことだね。よし、王柔、酒場の者に手伝ってもらって、皆の身体をきれいな水で洗ってあげ

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月の砂漠のかぐや姫 第91話

月の砂漠のかぐや姫 第91話

「あ、ああ、王花さん、ああ、ああっ!」
「大丈夫、大丈夫だよ、王碧。傷はふさがっているし、ここはアタシたちの酒場だ。安心していいんだよ」
「ああ・・・・・・、は、はい。そうだ、そうだよ。俺たちは、帰ってきたんだ。あいつらから逃げられたんだ・・・・・・」

 王碧と呼ばれた男は、意識がぼんやりとしている間は恐怖が表に出ていましたが、王花の言葉でようやく落ち着きを取り戻せたようでした。

「そう、そう

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月の砂漠のかぐや姫 第90話

月の砂漠のかぐや姫 第90話

 王花はまだ何か言いたそうにしている羽磋を目で制すると、その問題について語りだしました。
 ところどころに冗談を挟みながら、主に羽磋に対して王花が話した内容は、次のようなものでした。

 ヤルダンは土光村と吐露村の間にあります。その中では、風が砂岩を削って作りだした奇妙な岩が、ただでさえ迷路のように入り組んだ地形を飾り立てるかのように林立しています。この複雑な地形は盗賊が待ち伏せを行うにはまさにう

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月の砂漠のかぐや姫 第89話

月の砂漠のかぐや姫 第89話

「さぁ、遠慮がなくなったところで、二つ目の問題だ。理亜の問題に加えて、小野がさっき話していたように、精霊の力、それも祭器によって大きくされた力が働いたような問題が、ヤルダンに起こっているのさ。実はヤルダンを通り抜けることが、できなくなっているんだよ。俄かには信じられないかもしれないが、ヤルダンの魔物、あの奇岩たちに遮られてね」
「ヤルダンが通り抜けできなく・・・・・・、え、それでは、吐露村に行けな

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月の砂漠のかぐや姫 第88話

月の砂漠のかぐや姫 第88話

「ひょっとしたら、精霊の力が関係しているのかも知れませんね・・・・・・」

 注意深く、羽磋はその言葉をテーブルの上に載せました。月の民にとって精霊とは自分たちと祖を同じくしている兄弟で、紛れもなく現実の存在でした。とはいえ、それは大自然と同様に捉えどころのない存在であって、唄や儀式を通して感謝や祈りを捧げることはあっても、その力を具体的な何かに利用しようとする考えや企てはありませんでした。そう、

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月の砂漠のかぐや姫 第87話

月の砂漠のかぐや姫 第87話

 物語は元の時間に戻ります。王花の酒場の奥の小部屋では、王花たちの話が続いていました。

「この子は風粟の病には罹っていない。少なくとも今はね。それはアタシが保証するよ。だから安心しておくれ、冒頓」

 そう言いながら理亜を見る王花の目は、とても優しいものでした。また、その口調には、冒頓を非難するような響きはありませんでした。むしろそこには、言いにくいことを口にしてくれた冒頓への感謝の気持ちすら、

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