見出し画像

兄のぬいぐるみと私のぬいぐるみがケンカして、母のぬいぐるみが仲裁にはいる

こんにちわーに。ぬいぐるみブロガー、Rin(リン)です。

先日、実家に帰ったときのこと。

うちの実家では、母と兄とで2LDKのマンションで二人暮らしをしている。
私自身は片道約2時間の隣県に住んでいて、実家へは数ヶ月に一回くらいのペースで遊びに行き、晩ごはんを食べて一泊して翌朝帰る、というのが定番になっている。

実家へ帰るときに連れて行くぬいぐるみが、ツキノワグマの"ころすけ"だ。現在私が暮らす家にはたくさんのぬいぐるみがいるが、実際のところは、実家を出てから私のところに新たにやってきた、つまり新しめのぬいぐるみのほうが圧倒的に多い。でも、"ころすけ"は違う。私が子供の頃、8才の誕生日のときに私のもとにやってきた旧い付き合いのクマで、母も兄もよく知っているからだ。つまりは、ぬいぐるみ共々、帰省する、というカタチだ。

「やぁ。来たよ。」

私は実家に到着すると、まず黒いリュックから"ころすけ"を取り出して、実家にいるぬいぐるみの面々に、順番に挨拶をさせる。実家のぬいぐるみの顔ぶれはというと、私との旧知の仲、つまり私が子供の頃からいて現在も実家に残って暮らしているコたちもいれば、私が実家を出たあとに、なにかの記念などでわたしが母へプレゼントしたコもいる。さらに言うと、兄のコ、つまり、兄の所有するぬいぐるみが日々増殖していて、一大勢力を擁している。

そう言うと、ずいぶんな量のぬいぐるみが2LDKの部屋に群雄していると思われるでしょうね。
はい、おっしゃる通り。
ただ、固定した居場所が決まっているコとそうでないコがいて。大概は、兄のぬいぐるみたちは、食事の時だけ食卓に連れて来られて、食べ終えると兄とともに自室に帰る、というパターンが多い。それ以外の、私の旧いぬいぐるみや母のぬいぐるみは居間か食卓で過ごしている。

ただ、例外もいる。兄の自室に住まっていて普段居間にはほとんど出て来ない、つまり私が帰省してもほとんど顔を合わさないヤツがいる。

具体的にお話しよう。兄がいちばん溺愛していて相棒であり子分でもある、アライグマの"ラーくん"だ。
ハッキリ言って、私と私のぬいぐるみたちは、"ラーくん"との折り合いがすこぶる悪い。私が帰省すると、他の兄のコたちは出迎えてくれるのだが、"ラーくん"はまず自分からは部屋から出てこない。私自身は"ラーくん"は好きだし愛情があるので、一目見たい一目会いたいのだけれど、先方さんはそうではないらしい。なので、私としては、"ころすけ"に、「ラーくんに会いたくて来たよ」、と話しかけ、おびき寄せる大作戦に出る。

すると、「ヤァころすけ、よく来たなぁ!」なんて偉そうな態度を取りつつも、彼が部屋から半分顔を出す。毛足はぺったんこでところどころハゲがあって、鼻先もゴワゴワだが、むしろ貫禄が出て凄みさえ感じる。
かねてより親分肌の"ラーくん"は、上下関係師弟関係をものすごく大事にしている。自分より上の立場は兄(何度も登場している、ニンゲンであるわたしの兄)しかいないので、私の実家にいるぬいぐるみ世界での頂点に君臨していると言っても過言ではない。実際のところ、"ラーくん"は私が6才のときの誕生日に来たから、"ころすけ"の2年先輩にあたるのだ。

前節が長くなりました。
先日私が実家に帰ったその日は、兄は夜、外で食事を済ませて帰ってきたのだけれど、結構お酒が進んだらしく、ちょっと酔っていた。母と私とは食卓に向かい合って晩酌をしながら母娘ふたりの取り留めのないおしゃべりに花を咲かせていた。

酔って帰宅した兄に、"ラーくん"を要求した私が間違っていたのかもしれない。そう気がついたのも後の祭りだった。

"ラーくん"、素直に食卓まで来てくれたところまでは良かったが、ずいぶんと虫の居所が悪かったようなのだ。

「あぁあん?」

うわ・・・感じ悪っ。

その直前、ちょうどレッサーパンダのぬいぐるみの"レッパパ"を横に座らせていた。"レッパパ"は私のぬいぐるみで、やはり子供の頃に買ってもらったコ。身体は大きめだが、気が優しくて、何か言われても言い返せないタイプの性格だ。"レッパパ"の名の通り、パパで、子供が2人いる。ママはおらず、いわゆるシングルファーザーだ。

「オイ!レッパパ!お前、そんなだから・・・!」

"ラーくん"が"レッパパ"のどこが気に食わなかったのか。とにかく、"ラーくん"の"レッパパ"批判が始まったのだ。

言い返せない"レッパパ"のために、身を挺したのが、ウサギの"サンちゃん"だ。"サンちゃん"は私が母にプレゼントしたぬいぐるみで、頭脳明晰な人格者(ぬいぐるみ格者?)である。ポロシャツの第一ボタンまできっちり閉めるようなタイプのぬいぐるみである。

このケンカ、何がきっかけで、何がどう展開してどう収束したのかは、正直なところ、全然覚えていない。機嫌の悪い"ラーくん"、その横暴な言いがかりを真に受ける気弱な"レッパパ"と、それを仲裁した冷静沈着な"サンちゃん"。その3者の言い争いが、何がどうなってどんな結果になったのか、まったく思い出せない。
その時、すでに、私もワインを一本開けていた。多分、最後は、兄が風呂に入るといって"ラーくん"と食卓を去って、うやむやになったのだと思う。

やり取りの中で、ただひとつ、はっきりと記憶していることがある。

「ボク、もうやだ!この家出る!おねえちゃんのおうち、行く!」

"レッパパ"がはっきりとそう言ったのだ。
あの、モノ言えないコ、気の小さな"レッパパ"が・・・!
感動を覚えるとともに、責任を感じた。ぬいぐるみにも命と心と感情があるのだと。

おねえちゃん、とはつまり私、Rin(リン)のことだ。
ごめんね、早く、私の家に迎えられるように準備するよ。もうちょっと待ってね。
だけれど、まずは、今夜は一緒に眠ろう。子供の頃の、いつかのあの日みたいに。

皆さんは、この夜の出来事が、ただのぬいぐるみとお酒が好きな、母と兄妹3人の戯れだということはお気づきかもしれないが、私たち家族はそうやってぬいぐるみとぬいぐるみで会話をして、3人の均衡を取りながら、共に助け合って生きている。
やはり、私は、ぬいぐるみと共に生きている。

Rin(リン)

Blog "Bob in Camp Green"

Twitter @Rin04995780


この記事が参加している募集

#ほろ酔い文学

6,064件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?