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ピアノ

ピアノの音色は美しく聴く者を魅了する。そんな聴衆を惹きつけるピアニストにしたかったのか分からないが、小学生の時にピアノ教室に通わされることになった。絵画にピアノに忙しい幼少期だ。

通わされたというのは、もちろん自分の意思では無く、いやいや行かされることになったから。同級生達が思いっきり楽しそうに遊んでいる土曜の午後というのもいやだった理由。全く興味が持てなかったのも理由だ。

教室のあった場所はうっすらと覚えているが、先生の顔や名前は全く記憶にない。唯一覚えているのは女性だったということくらいだ。それも当然で3回しか行かなかったからだ。

そして、もう1つ最もいやな理由があった。それは当時流行っていたテレビアニメのタイムボカンの放映時間とレッスン時間が被っていたのだ。これは最悪だった。小学校低学年の男の子から人気になっているアニメを取り上げてはダメだと思う。

「見た?タイムボカン」「うん。サイコーだったな」
「あそこでドロンジョさま登場とかびっくりだったよな」
当然この手の会話についていけなくなる。寂しくもあり、つらくもなる。友だちが減ってしまうのではという危機感もあった。

結局、最後のレッスン、正確に言うと教室に入らなかった最後のレッスンで、僕のピアノ人生はあっさりと幕を降ろした。
記念すべきその日はもちろんタイムボカンの放映日だ。僕は無言の抵抗をするために、その日は教室の前の空き地でじっと時間が過ぎるのを待っていた。

ある作戦が浮かんでいたのだ。

時間を過ぎても現れないと分かった先生はキャンセルされたと思うだろう。そして、数十分して帰れば、親には先生の都合が悪くなり、今日はキャンセルになったと言えば良いのだ。

この見事な作戦により、晴れて念願のタイムボカンにありつけた。「面白かった。最高に面白かった。タイムボカンはグレートだった」。
もちろん、つたない作戦はその後親に知れ、こっぴどく叱られたことは言うまでもない。

僕は高校に入りドラムを始め、途中やらなかった時はあるが、社会人になっても続けている。数年前からはブルースハープも始めている。そしてコロナになり家にいる時間が増えたことで、以前から興味があったトランペットを始めることにした。


色んな楽器にチャレンジしたいと思っているが、いつの日かピアノもやってみたいと考えている。今はもうタイムボカンは放映されていないから、じっくり取り組めるはずだ。

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